コトづくり

移動の困りごとを、仕組みでほどく
福祉とまちをつなぐダイハツのコトづくりへの挑戦

現場密着で切り拓くダイハツの新規事業

新規事業推進室では、「車の売り方」ではなく「移動のうれしさや課題」から価値を見出す取組みを進めています。私はその中で、福祉介護分野のグループを担当しています。
当推進室は約40名で構成されていて、「福祉介護」「農業」「地域活性」「その他」という4つの領域柱があります。その中でも福祉介護領域は20名ほどが携わっていて、部門内では人員比重が大きいです。現場に入り込んで、お客様のもとで悩み考え工夫しながら本質的な変化を起こせるようなチャレンジを日々重ねています。

現場から育まれた視点:福祉介護事業への歩み

私がこの分野に関わるようになったのは2014年。当時所属していた、東日本の販売を強化する社内プロジェクトの一環で、「O.Jくん、神奈川どう?」という一言で、神奈川でのチャレンジ生活が始まりました。中途入社後、総務の仕事をしていた私は、車の販売経験がなく、いきなり「福祉車両を拡販できる型をつくってきて」と言われても、最初は戸惑いました。しかし、福祉介護サービスを提供している施設を1軒1軒訪ねて、介護現場の職員さんたちと話していくうちに、本当にお客様が求めているものに気づかせていただきました。多くの方が口にされたのは車への要望ではなく、「送迎が大変なんです」ということでした。送迎のルートづくりから時間配分、ドライバーの配置まで複雑で負担が大きい。また、人手不足で厳しい中、送迎業務に約3割の時間を費やしていることもわかりました。その実態を知った時に「これは“モノ”を売る話じゃない、“仕組み”を変えないとダメだな」と強く感じました。私たちは車メーカーなので、やはり「移動」というところに着目しています。一般的に、介護職員の労働生産性を高めようとすると、高齢者のケアをどう効率化するかとか、施設内のサポートをどうするかという発想になりがちですが、私たちはそこに深い知見があるわけではありません。だからこそ、私たちが本気で関わる意味があるのは、「介護施設に来ていただくための移動手段をどう効率化するか」だと考えました。それが「この領域には、自分たちが本気で関わる意味がある」と腹をくくった瞬間でもありました。

現場の声がカタチになった─ 2つのサービスと“ダイハツ流”のつくり方

そうした現場の声から生まれたのが、「らくぴた送迎」と「ゴイッショ」という2つのサービスです。
「らくぴた送迎」は、これまで職員さんが経験と勘で手書きしていた送迎計画を、デジタルで誰でも立てられるようにしたツールです。利用者さんの状態や送迎ルート、時間の調整など、細かく複雑な要素が多いこの業務が、介護現場では一部の“経験のある人”のカンコツに頼った結果属人化していることが課題でした。実際に「らくぴた送迎」を導入いただいた施設の方からは、「これでもう、あの人がいないと運行表がつくれない、という属人的な仕事のやり方から解放された」といった声をいただいています。
一方の「ゴイッショ」は、介護施設が担っている送迎業務そのものを外部に委託し、複数の施設利用者が乗り合って移動のできる仕組みです。加えて施設送迎の空き時間を2次活用します。介護職員の皆さんは、本来は利用者のケアに集中すべきなのですが、実際には朝夕の送迎でかなりの時間と労力を割いている。そこが大きな負担になっていて、「移動を地域で支える」という発想から、このサービスが生まれました。
事業づくりで大切にしているのは、「仮説と検証の高速ループ」です。現場の声から仮説を立てて、すぐにプロトタイプをつくって、また現場に戻る。その繰り返しです。考える担当と動く担当を分けることはせず、チーム全員が現場に出て、自分たちで確かめる。それがダイハツらしいやり方だと思っていますし、正直なところ、それが一番おもしろいですよね。

テクノロジーと地域連携の力で広がる価値提供

送迎プランの最適化にはAIを活用しています。例えば、複数の施設の場所や到着希望時間、複数の利用者のお迎え希望時間、狭い道では軽自動車が必要となるなど条件は本当に複雑ですが、私たちのシステムでは効率的なルートをつくることが可能です。
システムの肝となる要件づくりは、現場に入り込んで密着しているチームと、システム担当チームが密に連携をしています。福祉介護グループ内の3名が中心となって担当しています。単に「動けばいい」ではなく、実際に現場で“使える”かどうかにこだわって、何度も見直しを重ねてきました。介護職員の方のITリテラシーにも配慮して、使い方が難しくならないよう、画面構成や操作フローにも細かく気を配っています。
ほかにも、地域ごとの事情にしっかり合わせていくことも大事にしています。タクシー会社が「自分たちが地域の移動は担う」と明確に言ってくれる地域もあれば、逆に「ドライバーがいないから介護の移動に関わるところは全部お願い」と言われる地域もある。本当にバラバラなんです。だからこそ、私たちのサービスは1つの正解を押しつけないようにしています。あくまで「型」は提供するけど、誰がどの役割を担うかは地域と一緒に話し合って決めていく。そんなスタンスを一貫して大事にしていますし、その柔軟さが結果的にうまくいっている要因だと感じています。

未来に向けた展望と社会課題への挑戦

今後取組みたいテーマは3つあります。1つ目は、介護施設送迎車両の昼間の空き時間をどう活かすか。全国には20万~40万台とも言われる介護施設の送迎車両があり、昼間の稼働は限定的です。これを地域の移動資源として活かせないか、可能性を探っています。
2つ目は、送迎中の事故の抑制です。介護職員の方は朝と夕方に送迎をして、昼間は体力を使うケア業務に従事しており、その中での運転はリスクが高い。だからこそ、安全性を高めるための運行管理の最適化が必要です。
そして3つ目が、送迎データの活用による地域最適化です。誰がどこに通っているのか、曜日や時間帯の傾向はどうかなど、そうした情報を自治体と連携しながら地域全体の福祉インフラがもっと良くなるように、持続できるようにつなげていきたいと思います。
私たちが取り組んでいることは、決して派手なビジネスじゃないかもしれません。でも、どんなに小さくても目の前の困りごとを見つけて、それに本気で向き合って仕組みとして解決し、それを地道にやっていくことにこそ意味があると信じています。なによりも、高齢者が増え、働き手が減る日本の社会においては必要不可欠な取組みだと認識しています。
若い人たちにも、「ダイハツって、なんかおもしろいことやってるな」と思ってもらえたらうれしいです。社会の中で、誰かの役に立てていると実感しながら、自分の想いを形にできる仕事がここにはあります。

サステナビリティの取組み

サステナビリティトップメッセージ

ダイハツのサステナビリティ

サステナビリティストーリーズ

経営トップが描くダイハツの未来

基盤強化

気候変動への対応1

気候変動への対応2

技術・モノづくり

新興国の発展

コトづくり

環境

社会

ガバナンス

レポート