私は、マレーシアのプロドゥアから、2026年3月よりダイハツに出向しています。プロドゥアは、ダイハツグループの海外拠点として、車両開発・製造を担っています。日本で働くことが決まった時は、とても光栄で、ありがたい気持ちでした。ダイハツの知財部門には、特許や意匠に関する高い知見があります。その中で実務を学べることは、自分にとって貴重な機会だと感じています。
プロドゥアからの出向者が1名であり、知的財産室においてもICTメンバーの受け入れが初めてであるため、「自分でいいのかな」と不安に感じることもありました。それでも今は、「一人だからこそ必死でがんばれる」と前向きに捉えています。
私がプロドゥアに入社したのは2022年です。入社当初は、設計業務で使用する3D CADソフト「CATIA(キャティア)※2」の教育に関わり、マニュアル作成や新人教育などを担当していました。その後、2023年に知財グループが新しくつくられ、自分もそこに異動しました。知財については、知識も経験もほとんどないところからのスタートでした。今回の出向は、そうした自分にとって、知財の考え方や実務を基礎から学ぶ大きな機会になっています。
※2 CATIA:自動車などの製品設計に用いられる3D CADソフト(仏ダッソー・システムズ社開発)
プロドゥアでは、これまで意匠の出願や維持に関わる業務が中心でした。一方で、プロドゥアにも研究開発の機能があります。今後、現地での開発が進んでいく中では、開発の中で生まれる発明を見つけ、適切に守っていくことも重要になります。だからこそ、今回の出向では、特に特許について深く学びたいと考えています。
ダイハツに来て印象に残っているのは、知財の仕事が、開発のかなり早い段階から関わっていることです。知財というと、以前は出願に関わる仕事という印象が強くありました。しかしダイハツでは、設計部門と話しながら発明のポイントを見つけ、その技術が他社の特許を侵害していないかを確認しながら、開発を支えています。知財は、出願のためだけにあるのではなく、開発を安心して前に進めるために、早い段階から関わっていく仕事なのだと感じています。
ダイハツでは、知財部門と設計部門が早い段階からコミュニケーションをとりながら、特許活動を進めています。ここで学んでいるのは、知財部門だけで完結するのではなく、設計者と向き合いながら、開発の中にある技術を知財の視点で捉えていくことです。
例えば、設計部門とのキックオフでは、まず顔合わせを行い、その部門がどのような開発を進めているのか、今年度どのように特許出願に取り組んでいくのかを共有します。特許出願の目標もありますが、目標を決めただけで発明が自然に生まれるわけではありません。設計者の皆さんと対話を重ねながら、どこに発明のポイントがあるのかを見つけていくことが必要です。
その後も、特許検討会などを通じて、設計者が開発している技術について話を聞き、どのような発明が出せそうかを確認していきます。数字だけを押しつけるのではなく、設計者自身に「自分たちの開発から、どのような発明が生まれるのか」を考えてもらう。知財部門は、その活動を支援する立場で関わっていく。その進め方を、今まさに学んでいます。
プロドゥアでは、特許に関することをダイハツに任せる場面もありました。今後、現地での開発が進んでいく中では、プロドゥアの中でも知財を意識しながらプロジェクトを進めることが大切になります。ダイハツで学んでいる設計部門との関わり方は、将来プロドゥアに戻った時に活かし、知財部門と設計部門のコミュニケーションを強化することで、プロドゥアの設計者が開発プロジェクトにおいて自ら新しい発明を提案・貢献できる環境を整えていくことを、一つの目標としています。
今、一番力を入れているのは特許調査です。新しい技術が出てきた時に、出願できる可能性があるのか、他社の権利を侵害していないかを確認するためには、調査が欠かせません。
開発が進んだ後に特許上の問題が見つかると、製品化に大きな影響が出てしまいます。そのためダイハツでは、プロジェクトの節目ごとに知財の観点から確認を行い、「このまま開発を進めてよいか」を見極めていきます。こうした調査や確認は、開発を止めるためではなく、安心して前に進めるためのものだと理解しています。
調査では、分類やキーワードを使って設計者から相談を受けた技術に対して、調査するための条件をつくります。どの分類まで見るか、どのキーワードで調べるのかによって、得られる結果が変わります。調査した後は、関係するものと関係しないものをスクリーニングし、設計者と相談しながら、さらに関係の深いものに絞り込んでいきます。
調査結果を絞り込むのは非常に難しいことです。特許は言葉で権利範囲が定義されているため、解釈に迷う場面があります。特許文献には専門的な言葉や技術用語も多く、内容を正しく理解する力も必要です。また、設計者の考え方と知財の考え方がすぐに一致しないこともあります。だからこそ、設計者から必要な情報を聞き取り、わからないことを確認しながら、一つひとつ判断していくことが大切だと感じています。
調査ツールは進化しており、AIを活用できる部分もあります。ただ、技術の内容を理解し、調査式を立て、結果を判断する力は、人が経験を重ねながら身につけていくものです。日本語で自分の考えを十分に伝えきれないと感じる場面もありますが、まずは特許調査の力を磨き、開発を支えられる知財担当者を目指していきたいです。
プロドゥアの知財グループは、まだ新しい組織です。だからこそ、ダイハツで学んだ知識や経験を、プロドゥアに戻ってから実際のプロジェクトの中で共有していきたいです。
知財活動とはどういうものなのか。設計部門とどのようにコミュニケーションをとるのか。どのような規定や標準、基準が必要なのか。そうしたことを一つずつ整理しながら、プロドゥアの実情に合った形で知財活動を強化していきたいと考えています。
今は、プロドゥアからダイハツへ来て、学ばせてもらっている立場です。しかし将来的には、プロドゥアはこういう業務をしています、ダイハツではこういう進め方をしています、と「知っている者同士」で意見交換できる関係になりたいです。そうなれば、お互いの業務改善にもつながっていくと思います。
そのためにも、まずは自分が知財の仕事をしっかりと理解すること。そして、プロドゥアとダイハツをつなぐ窓口、懸け橋のような役割を担えるようになることが目標です。一つひとつの経験を大切にしながら、プロドゥアで知財活動を根づかせ、ダイハツグループ全体の知財力向上にも貢献していきたいと思っています。