量産BEV 製造
商用車づくりの経験を、BEVの生産準備へ
O.H:
私はこれまで、ベース車となる「ハイゼット」をはじめ、商用車の生産準備に携わってきました。特装車や海外車種も経験し、標準車とは構造や工程が異なる車を、既存ラインの中でどうつくるかを考える機会も多くありました。
今回の軽商用BEVでは、生産技術の立場から、工場での生産に必要な条件を車両設計に織り込む生産準備活動を行ってきました。ベースは「ハイゼット カーゴ」ですが、BEVになるとクルマの下側の構造が大きく変わり、電池やモーター、専用部品も加わります。そのクルマを、既存の生産ラインにどう乗せるかが最初の大きな課題でした。
K.T:
私はもともと組立製造の現場にいて、その後、生産準備や改善業務にも関わってきました。今回の軽商用BEVでは、開発の段階では製造目線で参加し、量産立ち上げは生産技術目線で関わっています。
BEVについては、以前から勉強しておかなければいけないという意識がありました。実証的なプロジェクトで、手づくりに近い形で車両をつくった経験もあります。そこで実際に触って、わからないなりに考えながら進めたことが、今回にもつながっていると思います。
製造現場にいたからこそ、図面上では成立していても、実際に作業者が組めるのか、タクトの中で無理なく続けられるのかは常に気になっていました。今回も、単に部品を組み付けできるかだけではなく、既存ラインで安定してつくれるかを意識していました。
今ある設備を活かし、工程を考える
O.H:
新しい構造だからといって、すぐに新しい設備を入れるわけにはいきません。スペースも限られていますし、投資や維持管理の負担もあります。特に少量生産のクルマであれば、今ある設備をどう活かすかを考えることが大切です。
私たちには標準車に多種多用途な装備を架装した特装車をつくるノウハウがあります。これまでにも、できるだけ標準車と同じ工程で組めるものは同じ工程で組み、専用部品や大きく構造が異なるものは特装車専用区で組み付ける対応をしてきました。今回も、BEVだからすべてを特別扱いするのではなく、共通でできるところは共通でやる。違うところだけをどう吸収するか。その切り分けを考えました。
例えば、今回新設計された後ろ側のサスペンションですが、車両組み付けする際、モーターと一括搭載する必要があり、今までとは大きく構造が異なります。従来のリフターでは対応できず新規設備の増設も頭をよぎりましたが、メンバーと意見を出し合い検討した結果、2段式にすることで既存の工程で搭載ができるようになりました。ESUという電気自動車用の制御ユニットについても、既存のエンジン車と同じラインで取り回せるよう、部品を乗せる治具の形状を工夫し対応しました。新しい部品を、今あるラインの中でどう扱えるかを考えた結果です。
一つひとつは小さな工夫ですが、それを積み重ねることで、標準車の流れを大きく崩さずにBEVを流せるようになります。既存ラインを活かすというのは、単に設備を変えないということではなく、変化に柔軟に対応できる生産現場を考えていくことだと思います。
K.T:
課題解決にあたっては小回りが利くことも、今回の立ち上げでは大きかったと思います。ダイハツ九州には、困った時に、部署を超えてすぐ相談できる距離感があります。「少し使わせてほしい」「ここを手伝ってほしい」と声をかけやすい。もちろん、そのぶん、自分たちで考えなければいけません。
まず試して、うまくいかなければ直す。その繰り返しでした。
やってみながら、現場で使える形にする
K.T:
初めて扱う構造も多くありました。後ろ側のサスペンションをどう組むのかを考えるために似た構造のクルマを確認し、実際に分解して組み直すところから始めました。電池を扱うために必要な資格を取り、絶縁手袋や安全靴も準備しました。知らない構造を観察し、必要なものを判断し、なければつくる。手づくり満載のスタートで、大変でしたが、正直、楽しくもありました。
モノをつくる時に大事にしているのは、使う人にとって本当に使いやすいかどうかです。使いにくいものをつくっても、結局使われなくなります。作業者がどうすれば使いやすいか、どこがやりにくいかを見ながら、少しずつ直していきました。
電池の搭載でも、大がかりな設備にしないよう、搭載リフターをつくって電池を持ち上げるのではなく、車両側を下げて組み付けるという方法を考えました。ただ、そこで難しかったのが、組み付けのネジ穴がずれないように車両側と電池側の位置を揃えることでした。最初はレーザーや基準ピンも考えましたが、水平がとれず傾くと使いにくいことがわかり、最終的には、車両側の穴からチェーンを垂らし、電池側の穴に通す方法で対応しました。大がかりな設備に頼らず、シンプルな仕組みで効果を出せたことは、今回の工夫の一つです。
他部門や仕入先様と一緒に、解を探す
O.H:
実際にラインで流してみると、想定していなかったことも起きます。これまで見たことがないエラーが出て、何日も解析したこともありました。ラインが終わった後に関係者で集まり、もう一度クルマを流して再現してみたり、挙動を確認したりしながら、一つひとつ原因を探っていきました。
ありがたかったのは、誰も「それは設計の課題」「それは生産ラインの課題」と切り分けなかったことです。どんな課題でも製造、検査、品質保証、設計の方々が協力してくれました。設計上の課題であっても、製造側でどうすればできるかを一緒に考える。そういう進め方ができたことは大きかったと思います。
K.T:
今回、製造や生産技術、設計だけでなく、評価や耐久試験、調達、取引先様の方々とも関わる機会がありました。安定した品質で部品を納めるために、取引先様の方々がどれだけ準備しているかも見ることができました。一台のクルマを世に出すためには、本当に多くの人のがんばりがあるのだと感じました。
仕入先様のモノづくりを理解することも大切です。こちらの都合だけでお願いするのではなく、相手がどのような工程で、どのような苦労をしながら部品をつくっているのかを知る。そこをわかったうえで相談しないと、現実的な改善にはつながりません。
困った時こそ、次のモノづくりにつながる
O.H:
今回を通じて感じたのは、わからないことがあっても、勉強し、失敗しながら形にしていけば、できなかったことをできるようになるということです。これから先、電動化なのか、別の燃料なのか、どう変わっていくかはわかりません。それでも、「どうすれば実現できるか」を考え続ける技術者でありたいと思っています。
K.T:
後輩には、困ったからやめるのではなく、困ったからこそ解決するプロセスを楽しんでほしいと思っています。自分自身も、新しいことにはこれからも挑戦していきたいです。DXでも、切削や加工、溶接でも、必要だと思った手段は自分で試していきたいです。「あの人に頼めば何とかなる」と言われるような人材になりたいです。
O.H:
自分たちが苦労しながら形にしたクルマだからこそ、多くの方に良いクルマだと感じて使っていただけたらうれしいです。山間部などガソリンスタンドが遠い地域では、自宅で充電できることが使いやすさにつながるかもしれませんし、災害時の電源としても活用できる可能性があります。今回のモノづくりで得た経験を、次のクルマづくりにもつなげていきたいです。