
2024年3月に新たな経営体制が発足してから、あっという間に2年余りが過ぎました。振り返れば、この間は新しい構想を大きく掲げて進めるというより、目の前で起きている課題やトラブルに一つひとつ向き合い、止まっていたものを動かすことに全力を注いだ時間だったと感じています。
当時のダイハツは、工場が止まり、モノがつくれず、お客様にお届けすることもできない状態にありました。メーカーとしての存在意義そのものを失っていたと言ってよい状況です。だからこそ私は、まず少しでも早く正常な姿に戻すことを最優先にしてきました。同時に、本部長体制の見直し、管理スパンの適正化、組織のピラミッドの簡素化など、組織の在り方もこの2年で見直してきました。形を整えること自体が目的ではなく、ダイハツの中身をどう変えていくか。そのための土台を整える時間でもあったと思います。
着任時、日本の4工場の大半は稼働を停止しており、そこから1機種ずつ再開して、正常化までには半年以上を要しました。各工場やユニット工場が半分程度の稼働にとどまっていた時期もあります。そこから少しずつ人とモノが動き出し、クルマをつくる音が戻ってきたことは、私にとって非常に大きな変化でした。
工場が動くというのは、ダイハツの中だけの話ではありません。58社の販売会社、仕入先様の方々、その周辺の地域社会まで含めて、多くの人の暮らしが動き出すということです。停止の間は、お店を閉めるかもしれないという不安を抱えておられた方々もいました。モノづくりが再び動くことは、雇用や地域経済を支え、日々の暮らしの基盤を取り戻していくことでもあります。事業が社会と広くつながっていることを、あらためて強く認識しました。
この2年で強く感じたのは、人の変化です。工場が止まり、下を向かざるを得なかった人たちが、少しずつ前を向いて動き始める。その中で、隣の部署や工場、仲間を自然に助けようとする場面が増えてきました。必要があれば人を派遣し、遠隔地にも支援に向かう。そうした助け合いが、危機を通じて少しずつ根づき始めていると感じています。
結局、会社を動かすのは人です。設備も工程も、人が動かし、人が改善し、人が伝承します。熟練社員が持つ知識や技能を次の世代につなぎ、若手社員が持つ熱意や行動力を伸ばしていく。その積み重ねが、ダイハツの競争力になります。変化が大きい時代だからこそ、ここには大きな成長の機会があります。従業員一人ひとりが力を発揮し、次の世代がその中で育っていくことは、企業の持続性を支える基盤そのものだと考えています。
これからのダイハツは何を軸に進んでいくのか。正直に言えば、まだ手探りの部分はあります。ただ、ぶれてはならない根本は明確です。それは、お客様に寄り添い、「良品廉価」の商品を通じて、もっといい暮らしに貢献することです。
その方向性を、私は「軽自動車を中心に据えたモビリティカンパニー」として、あらためて捉えています。軽自動車を核にしながら、地域の移動や仕事、日々の暮らしを支える価値を広げていくことが、これからのダイハツの役割だと考えています。
ダイハツグループが開発に携わったクルマは、トヨタ自動車(以下、トヨタ)との協業モデルを含め、日本で100万台、海外で100万台、合わせて世界中で年間約200万台をお客様にお届けしています。ブランドで見ても、ダイハツブランドが100万台、トヨタブランドが100万台です。ダイハツという会社の仕事は、ダイハツブランドのクルマだけで完結しているわけではありません。ダイハツが開発に携わり、トヨタブランドとして国内外のお客様に届くクルマも数多くあります。だからこそ、自分たちの仕事がどこにつながっているのかを一人ひとりが理解し、それぞれの持ち場で価値を出していくことが大切です。これは従業員にとっての働く意義であり、取引先様やパートナーの皆様にとっての「ダイハツと一緒に仕事をする価値」でもあると思います。
ダイハツのクルマは、使ってもらってなんぼです。商売に役立つ、生活を支える、毎日を少し良くする。そうした「もっといい暮らし」への貢献こそが、私たちの一丁目一番地です。それは同時に、地域の移動や仕事を支え、暮らしの基盤を維持するという社会的な役割でもあると考えています。
環境への対応は、ダイハツにとっても重要な経営課題です。ただ、電動化だけが唯一の正解だとは考えていません。もともと小さく軽いクルマは、製造から使用、廃棄・リサイクルに至るまで、ライフサイクル全体で見た環境負荷を抑えやすいという特長があります。私は、こうした小さなクルマならではの価値そのものも、環境対応の大切な選択肢の一つだと考えています。そのうえで、製造段階でどれだけ効率的にエネルギーを使うか、小さく軽いクルマそのものが持つ価値をどう磨くか、さらに地域やエネルギー事情に応じてどの技術を選ぶか。その組み合わせの中で現実的な道筋を考える必要があります。環境対応を進める目的は技術そのものではありません。事業を通じて、お客様の暮らしや仕事、そして社会にどのような価値を届けていけるのか。その視点を大切にしながら取り組みを進めていきたいと考えています。
今年2月には、ダイハツ初の量産BEV(バッテリー式電気自動車)である「e-ハイゼット カーゴ」「e-アトレー」を発売しました。電気自動車の普及には、車両価格やインフラ、エネルギー供給の在り方など、なお多くの課題があります。そのような中で、ダイハツが得意とする商用の領域から一歩を踏み出し、現場で起きる課題を一つずつ確かめながら進めていくことに意味があると考えています。
商用車として見れば、電気自動車は出だしのトルク制御に優れ、静かで、100V給電もできる。住宅街での早朝・深夜配送、現場で使う機器の充電、災害時の移動電源など、従来車にはない価値もあります。環境対応を目的化するのではなく、お客様の仕事や暮らしにとって本当に役立つかどうかを起点に、選択肢を広げていく。環境負荷の低減と、生活・仕事の現場での使いやすさを両立させながら、現実に根差した形で前に進めていくことが重要だと考えています。
変化が大きい時代に、最後まで競争力を左右するのは人です。そして、人が力を発揮するために必要なのは、シンプルでわかりやすいメッセージだと私は考えています。会社がどこに向かっているのか、何を今やるべきなのか、変化点はどこにあるのか。それをできるだけシンプルに共有し、まず動く。完璧な答えを待つのではなく、拙速でもアクションを起こし、その中で考え、修正し、また前に進む。そうした姿勢が、今の時代には不可欠です。
社会は一様には変わりません。国や地域によって課題も違えば、求められるモビリティも違います。だからこそダイハツは、1つの流れに決め打ちするのではなく、お客様に寄り添いながら、必要とされるクルマをタイムリーに届け続けたいと思います。格好をつけるのではなく、泥くさく、愚直に。もっといい暮らしのために、いいクルマをつくる。この根本をぶれさせずに進んでいくことが、これからのダイハツの持続的な成長につながると考えています。
そのために、従業員、取引先様、販売会社、地域社会をはじめとするステークホルダーの皆様と対話を重ねながら、必要とされる価値をともにつくっていきたいと考えています。