私の部署では、バッテリーやモーター、クルマの走行制御に関わる電動システム全体の設計・開発を行っています。「e-SMART HYBRID」や、大阪・関西万博に提供しているパーソナルモビリティ「e-SNEAKER」などの電動システムも、電動システム開発室で担当しています。
私たちの部署は、「環境のために働く」というのが合言葉で、ちょっと遊び心も込めて、自分たちのことを“地球防衛隊”と呼んでいます。地球規模の課題に、技術でどう立ち向かうか──そんな想いを込めながら、日々、開発に取り組んでいます。
「e-SMART HYBRID」の開発が本格的にスタートしたのは2017年頃です。私はその立上げのタイミングから関わっていまして、当時は本当にごく少人数で、手探りの状態からのスタートでしたね。“ダイハツらしいハイブリッドって何が正解なんだろう”というところから始まった感じです。
私たちが目指したのは、「軽・小型車に最適なハイブリッドシステム」でした。いくつもの方式を検討した結果、たどり着いたのが「シリーズ方式」と呼ばれる仕組みです。これは、エンジンで発電し、その電力でモーターを駆動するという、非常にシンプルな仕組みです。エンジンと車輪が直接つながっていないため、構造もシンプルで、コストとの相性も良い。さらに、ダイハツは長年にわたり小型車に特化して培ってきた高効率エンジンの開発技術があります。この強みを最大限に活かし、発電専用エンジンとしての最適化を図ることで、シリーズ方式との親和性をより高めています。また、今後の電動車ラインアップの拡充や、お客様の多様なニーズに対応するモビリティ社会の実現を見据えたときにも、このシステムは柔軟性と発展性に富んでおり、スモールカーを得意とするダイハツにとって理想的な選択肢だと考えています。
また、燃費性能と価格のバランスをどうとるかという点も大きなテーマでした。その中で、あえてバッテリー容量を小さくし、効率的な制御技術で性能を引き出すという、少しチャレンジングかつダイハツらしい方向性を選びました。電動感を強調するのではなく、トータルの効率性やコストとのバランスを重視したのです。
走行中の音や振動といった快適性の面でも、かなり細やかなチューニングを繰り返しました。例えば、エンジンがかかる瞬間の音の出方や、モーターの動き方一つとっても、乗っていて違和感がないようにチューニングを重ねています。ドライバーが「電動車がいいな」と構えずに自然に乗れる、そんな安心感のある仕上がりを目指して、開発を進めてきました。
私たちダイハツが開発で大切にしているのは、「顔の見える関係性」です。設計、試作、制御、評価など、開発に関わる担当者が密に連携して、常に状況を共有し合いながら仕事を進めています。評価担当だから走行試験だけ、設計担当だから設計だけというふうに分業するのではなく、みんなが一体となって現場を回していく。そんな空気があるのが、私たちの強みだと思っています。試験走行も、基本的には自分たちの手で行います。例えば、「ロッキー」の開発のときは、年始早々にもかかわらず、当時の部長と2人でテストコースにこもって延々と走り込みました。「あれ?」と感じたことがあればその場で立ち止まって、すぐに改善に取りかかる。そういう地道さが私たちのやり方なのです。
「お客様が喜ぶクルマをつくりたい」とみんな本気で思ってるんですよ。「e-SMART HYBRID」を発売したときには、「燃費がいい」「走りが静かでスムーズ」といった声を多くいただき、自分たちの努力が報われたと感じました。その一方で、「もっと電気で走ってる感じがほしい」といったリアルな声も届きました。そうしたフィードバックも大切に受け止めながら、次の製品開発につなげていきたいと考えています。
「e-SMART HYBRID」は、マレーシアで限定的に導入を行い、今後インドネシアへの導入を見据えています。国によって道路事情や電力事情、使用環境が違うので、「その国に合った選択肢を用意する」ことが何より大切だと考えています。つまり、「これさえあればOK」という単一解ではなく、複数の解決策を並行して用意しておく“マルチパスウェイ”の考え方ですね。BEVやハイブリッド、水素、バイオ燃料など──どれが正解かは地域や用途によって変わりますから、今の時点で一つに絞ることは難しいと思っています。
特に日本では、充電インフラの整備がまだ発展途上で、日常的な使い方にも独特の事情があります。だからこそ、「日本には日本に合ったBEVがある」と私は思っています。私たちがきちんと考え抜いて、地域に合ったBEVを提案していく必要があると感じています。例えば、「e-SNEAKER」は高齢の方の使用を想定し、安全性にはとことんこだわり、いろいろなシチュエーションで徹底的にテストを重ねました。ダイハツらしい“人に寄り添うモビリティ”の形を、この「e-SNEAKER」でもしっかり表現できたと思っています。
現在、私のチームには若手社員はもちろん、女性、外国籍の方、シニア世代のベテランまで、実にさまざまなバックグラウンドを持った仲間たちが、それぞれの持ち味を活かしながら開発に携わっています。
私が常に心がけているのは、役職や年齢に関係なく、メンバー一人ひとりの想いや強みにしっかりと向き合うことです。そのために、日々の何気ない会話や1on1の対話の機会をとても大事にしています。「こうしたい」「これが得意」──そんな声をキャッチしながら、チームとしてどう成長していけるかを一緒に考えていく。そういう関係づくりを意識しています。
私たちが目指すのは、「安全性と品質をしっかり守りながら、コストパフォーマンスに優れたクルマ」をお客様に届けることです。それが結果的に、お客様の暮らしに寄り添うことになり、ひいては環境にも貢献する──そんなクルマづくりができたらと考えています。
もちろん、やるべきことはまだまだたくさんあります。でも、だからこそ「まずやってみよう」という精神で、これからも前向きにチャレンジし続けたいと思っています。ダイハツらしく、そして“地球防衛隊”らしく、一歩ずつ着実に取り組んでいきたいですね。