■私が思うクレイモデラーの仕事と役割

クレイモデラーの仕事は、デザイナーが描いたスケッチを矛盾のない美しい立体へと昇華させることです。スケッチでは魅力的に見える形も、立体になると違和感が生まれることがあります。その違和感を一つひとつ見極めながら、0.1mm単位までこだわって削り込み、クルマの存在感や空気感をカタチにしていきます。そうしてデザインに込められた価値を最大限に引き出すことが、クレイモデラーの役割です。

■学生時の成長のきっかけ──憧れと外の世界

学生時代を振り返ると、私がクレイモデラーを目指すために高いモチベーションを維持できたきっかけは2つありました。

──ひとつめは「憧れ」です。大学1年生のころ、先輩から「クレイモデラー」という職業があることを教えてもらいました。平面のスケッチが手仕事で立体になっていく様子は、職人のように見え、そのカッコよさに強く惹かれたのを覚えています。

ありがたいことに大学にはクレイモデリングの環境が整っていて、すぐに実際のクレイに触れることが出来ました。初めてクレイを削った時を振り返るとものすごく下手で、当時の写真を見返すと頭を抱えるレベルです。しかしその削り心地や音、そして自分の手でカタチを生み出せたうれしさから、気付けばクレイモデラーという存在に強く憧れていました。私にとってそういった強い憧れがあったからこそ、高いモチベーションを維持し続けることができたのだと思います。

──ふたつめは「外の世界」です。私は大学2年生の頃に低学年向けのモデラーインターンシップに参加しました。クレイモデラーに憧れていた私は、何としてでも参加したいという思いから、事前課題やポートフォリオ制作に打ち込みました。また、スキルアップを図り、デザイナー志望の先輩との共同制作にも取り組み、スケッチの意図を読み取りながらカタチにする経験も積みました。

そうして参加したインターンシップで、私は初めて自分の現在地を客観的に知ることになりました。

現場で働くプロの技術に触れたことも印象的でしたが、それ以上に印象に残ったのは、同じモデラーを目指して集まった学生たちとの出会いです。 私はこれまで自分なりに努力して、上達してきたつもりでした。しかしそこには、自分よりずっと高いスキルを持っている人や、自分にはない考えを持っている人たちがたくさんいました。そうした同志たちと制作したモデルを評価し合う中で、私は、自分が見ていた世界がまだ狭かったことに気付き、見つめ直すことができました。インターンシップに参加するまでは、上達にはひたすら手を動かすことが重要だと考えていました。しかし、多様な価値観や考え方を持つ人々と出会い、技術だけでなく物事の捉え方にも大きな違いがあることを実感しました。その中で、自分に足りない点や伸ばしたい強みが見えるようになり、どのようなスキルや姿勢を持ったモデラーになりたいのかを具体的に考えられるようになりました。

だからこそ、学生の皆さんにも興味のある分野や憧れる環境があれば、ぜひ早いうちに飛び込んで頂きたいです。インターンシップで得られるものは技術だけではありません。自分より高いレベルの人、自分とは違う考え方を持つ人との出会いによって、自分の現在地や可能性を知ることができます。私にとってこのインターンシップは、「上達するための経験」以上に、「自分の世界を広げる経験」でした。そして世界が広がったことで、目指すべき方向も以前よりはっきり見えるようになりました。学生時代だからこそできる挑戦が、将来を大きく変えるきっかけになると思います。
学生時のインターンシップ風景

■私が大切にしていること──良否判断力は自己分析と言語化によって磨かれる

クレイモデリングの現場では、粗盛りから粗削りまでのデッサン、そして造形の品質を高めていく仕上げまで、すべての工程で高い技術や能力が求められます。私が特に重要だと思っているのが、お客様が求める価値を正しく理解し、それにふさわしい立体表現になっているかを見極める「良否判断力」です。

このクルマを選ぶお客様はどんな価値観を持っているのか、どのような形に魅力を感じるのかを想像し理解したうえで造形することが重要だと考えます。 ただし、自分ではない誰かのことを理解するのは簡単ではありません。 私はまず自分自身を知ることから始めました。 普段なんとなく「いいな」と思って手に取ったモノや、購入したモノに対して、「なぜそれを選んだのか」を考えました。

例えば、シャープな線が好きなのか、やわらかな面構成が好きなのか。どっしりと安定感のあるバランスに惹かれるのか、それとも軽快で躍動感のある姿勢に魅力を感じたのか。 そうやって自分の好みを細かく分析していくと、自分の「好きなかたちの傾向」が見えてきます。 自分の好みの解像度を上げて言語化できるようになると、今度はお客様の立場で考えやすくなります。 私たちは、そのようにお客様の暮らしや気持ちに寄り添いながら、求められる価値の解像度を高めて造形を行うことが重要で、その積み重ねがクレイモデラーとしての良否判断の礎になると考えています。

■クレイモデラーの仕事の工程──デザイナーとアイデアを探る、後工程にこだわりを繋ぐ

私たちは、企画意図を深く理解し、デザイナーとともにアイデアをカタチにしていきます。私たちはデザイナーに対して造形アイデアの解像度を上げるサポートを行いながら、1/10や1/4スケールのモデルでキャラクターや立体構成を磨き上げ、最終的には1/1のフルスケールモデルとして具現化します。フルスケールモデルでは細部まで徹底的に作り込み、実寸ならではの存在感や空気感を表現します。そして完成したモデルはデジタルモデラーによってデータ化され、次工程へと引き継がれていきます。しかし私たちが引き継ぐのは形だけではありません。意匠の想いや造形へのこだわりを次の工程へ確実につなぐことも、クレイモデラーとしての大切な使命です。

■平日の過ごし方

朝は早起き。植物の健康確認から。

起床は少し早めですが、朝は得意な方なので目覚ましは必要ありません。庭の植物の様子を伺ってから家を出ます。この日は夕方に大事な検討を控えた比較的忙しい日です。1日の業務計画をチームで確認し合った後、検討に向けた造形の最終調整。午後は艤装といって、クレイモデルにフィルムを貼るなどして、より実車に近い見栄えに近づけていく作業です。 そしていよいよ検討が始まります。もっと良くしていくための議論を重ねたり、自分の中でも振り返りを行います。検討後は次に向けた作戦会議として修正に必要な時間や方向性を整理し、ブラッシュアップに進みます。そうして仕事を終えると晩酌を楽しみに帰路につきます。特に焼酎は五臓六腑に染み渡り、1日の疲れを癒してくれます。

■休日の過ごし方

家族と趣味で過ごす週末

朝は平日と同じ時間に起きます。基本的には家族と共に過ごしていますが、趣味の園芸や釣り、たまに昼からお酒を楽しんでいます。中央競馬の開催期間には日曜日の午後に予想と観戦です。

( PROFILE )

さっくん

クレイモデラー

2018年入社

九州産業大学芸術学部卒

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