
2050年までの世界的な目標となっている「カーボンニュートラル」。
クルマそのものはもちろん、製造工程でもCO2排出量の削減が求められています。
実はダイハツで、カーボンニュートラルの実現に向け、世界でもめずらしい取り組みをしているってご存じですか?
そのカギを握るのが、滋賀県竜王町で肥育されている「牛の糞」!
“ダイハツならでは”の取り組みである「竜王バイオガスプロジェクト」に関わった方々とその思いを、インナーコミュニケーションGの岩本がご紹介いたします。
「竜王バイオガスプロジェクト」の全貌
本プロジェクトは、滋賀県竜王町で事業を営む、耕種農家、畜産業(近江牛)、そしてダイハツ工業、この「耕・畜・工」が連携し、新たな資源・エネルギーを創出する「竜王町バイオマス産業都市構想」を実現する取り組みです。
詳しくは、竜王町HP内の動画(参考資料)をご覧ください。

この「竜王町バイオマス産業都市構想」において、ダイハツ工業では、牛糞から環境にやさしい燃料であるバイオガスをつくり出し、自動車製造のための熱源として活用する「竜王バイオガスプロジェクト」を推進。
日本の和牛肥育方法から得られる水分量の少ない糞を原料とし、製造業の工場内でバイオガス発酵を行う工程は、世界でもあまり例がありません。

このプロジェクトは「耕・畜・工」で三方良し。地球にやさしい、持続可能な地域を目指すものです。

より詳しいプロセスは、こちらの動画をご覧ください。
革新的アイデアの生みの親
脱炭素のため、再生可能エネルギーを地域でつくる方法を模索していたBRバイオ推進室 の大庭靖史さん。
滋賀県で肥育されている近江牛の牛糞を使って、ガスがつくれないかと考え、自ら澤井牧場の澤井隆男社長に話をしに行ったことから、このプロジェクトが動き出しました!

たくさんの失敗があったからこそ、ここまで実現できたんですね!
失敗や苦労も含めて、実際に立ち上げに関わった皆さんがどのような思いで取り組まれているのかを聞いてきました!

前例のない取り組みを支えた「なかま」たち
BRバイオ推進室は、工場、生産技術、開発、営業など、多様なキャリアをもつ人たちが集まった組織。
皆さんの力が結集して実現したこのプロジェクトですが、今回はその中の4人をピックアップしてご紹介します!
実証プラントの開発を手掛けた「古田 暢彦さん」
今は設備が入り立派なプラントですが、古田さんが来た時は何もなく、床の砂利をセメント施工するところから始めたそうです。失敗や苦労されたこと、教えてください!

これは、発酵槽を保温する設備です。大型オーブンのような市販品でも代用できますが、高価でエネルギーを使うので、自分たちでつくりました。最初は、温水配管を床に通し、べニヤ板で囲った簡素な構造で試作。しかし性能が足りず、ビニール袋に湯を入れた簡易蓄熱材を温水配管の上に置いたり、手作業で断熱材を貼り付けたり……。泥臭く、何度もトライ&エラーを繰り返し、今の形が出来上がりました。
他にも、北海道や高知の山奥にある施設で現地・現物を見学して導入した設備や、工場で休止していたロボットやコンベアを“やってみよう”の精神で改造した設備もあるとのこと。「すべての工程に失敗や苦労を重ねたストーリーがあるんです」と熱く語っていただきました。
でも、失敗や苦労続きなのに、このプロジェクトに参加した時からずっと、「ワクワクしている」とおっしゃる古田さん。なぜなのでしょうか??

新しい挑戦をなんとか実現させたい!その一心ですね。これまでさまざまな部署で新しいことに取り組んできましたが、事業として成立させるのはとても難しいことです。このプロジェクトも、まだ実証段階。コスト削減や機械の改良など、今も毎日チームのメンバーと試行錯誤しています!

製造の立場からプラントの開発に参加した「谷 賢二さん」
現在は、プラント運用と堆肥・液肥の使用方法の検討など、幅広く取り組まれている谷さん。プラント開発でのこだわりを教えていただきました!

牛糞をバイオガスや肥料にするまでの工程では、作業する人の動線は最短距離で、無駄のない動きにすることにこだわりました。
ダイハツのSSC(シンプル・スリム・コンパクト)※の考えが、ここで生きてきたんですね!最初は2人必要だった作業も、工夫を重ねて、1人でできるようになったそうですよ!
他に、苦労されたことなどはありましたか??
※SSC……設備やプロセスなどをシンプル・スリム・コンパクトにして効率化する、ダイハツにおける仕事の進め方・考え方の基本。

開発を始めた初期は、澤井牧場さんにスコップで300kgもの牛糞を取りに行ったり、それを手作業で機械に入れたり……腰が痛くなって毎日ヘトヘトでしたね。
時には、牛糞を発酵してつくった液肥を運ぶ配管が外れ、頭からかぶってしまうこともあったのだとか……! しかし、「定年間近に新しいことにチャレンジし、刺激的な毎日を送っています」と楽しそうに話されているのが印象的でした(^^)。

実証プラントで製造した液肥・堆肥は、実証に参加いただいている農家さんの田畑に、我々の手で撒かせてもらっています。安心なものを提供することがダイハツの使命であり、それを受け入れてくださる竜王町の方々に感謝の気持ちを込めて、一生懸命取り組んでいます。
「発電機」の開発に携わった「渡邉 豪人さん」
牛糞から発生させたバイオガスを電気に変える「発電機」。その中身には、“ダイハツらしい”技術や努力が詰め込まれていました。

発電機の試作品第1号は、工事現場などで使われている発電機を分解してエンジンを取り出し、代わりにダイハツが昔販売していた「CNGミラ」(天然ガスで走る車)のエンジンをのせたものでした。実際に電気を発生させることができた時は、感動でしたね!
ガソリンエンジンを発電機に使用するとなると、365日24時間稼働しなければなりません。これは、自動車でいうと80万km走れるほどの耐久性が必要とのこと(通常、自動車であれば10万kmほど)!
燃料も使い方も自動車とはまったく異なるため、さまざまな工夫をしたようです。
まず、滋賀テクニカルセンターでメタンガスでのミニ耐久試験をし、摩耗が少ない部品を選定
↓
24時間稼働できる九州開発センターへ、フェリーなどを使って持ち込み
↓
エンジン・駆動評価解析室の協力のもと、耐久試験を実施
↓
池田開発試験棟メンバーと協力し、ボルト一本まで分解して摩耗を測定した後に再度組立(これを耐久試験3,500時間の中で3回繰り返し!)
気が遠くなるような作業を経て、ここまで実現できたのですね!


この実証では、発電機のモーターは専用品を使っていますが、ゆくゆくはクルマに使われているモーターをそのまま使って、ダイハツならではのモノづくりがしたいと考えています。発電機開発チームは、20年以上一緒に働いてきた気心が知れた仲間です。この仲間と、新しいメンバーが加わったにぎやかなBRバイオ推進室で、次のステージに向かっていきます。
全体の進捗管理と事業性の検討を担当する「原 卓嗣さん」
この「竜王バイオガスプロジェクト」は、耕・畜・工のサイクルが“うまく回る”ことではじめて、持続可能な取り組みになります。
竜王町の皆さんとダイハツ、それぞれの意見を聞きながら事業性の検討を進めていくことの難しさもあるかと思いますが、どのような思いで取り組まれているのでしょうか?

どうすれば「耕・畜・工」、それに竜王町を含めたみんながハッピーになれるのかを考えて、プロジェクトを進めています。原料を出してくれる近江牛や発酵で生産されたバイオ液肥・堆肥で育った農作物が、“Made in 竜王”としてブランド化されて日本全国に広まることが、私たちの嬉しさにもつながっていくのです。
前職場ではサービス部に所属していたこともあり、普段から“お客様に喜んでもらうために自分には何ができるか”を意識されているという原さん。
業務ではダイハツ社内だけでなく、社外の人たちも含めてさまざまな調整が必要であることから、自らを含むメンバーを“アレンジャーズ”と呼んだりもしているそうですよ!(笑)

プロジェクトに関わっている人たちと話していると、皆さんの「本気度」が身に染みて伝わってきます。私ももちろん本気で取り組んでいますが、足りないところもあり、頼ってしまっている部分も多いのが正直なところ……。もっと勉強し、人脈を広げ、成長できるよう頑張ります!
未来への想い
インタビューさせていただいた皆さん、実証プラントの完成という喜びに留まらず、“すでにその先を見据えている”情熱が伝わってきました。このバイオプラントが持続可能な地球環境を育む未来に向け、皆さんが一歩一歩、着実に前進しています。そんな「なかま」の姿に触れ、私もまた、共にその未来を築く一員であることを自覚しました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
実際の実証プラントの様子
関連リンク
この記事の登場人物
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BRバイオ推進室
大庭 靖史
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BRバイオ推進室
古田 暢彦
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BRバイオ推進室
谷 賢二
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BRバイオ推進室
渡邉 豪人
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BRバイオ推進室
原 卓嗣
このプロジェクトを進めるなかで、私はなかまに「新しいことにチャレンジするには、必ず失敗せよ」と言ってきました。一度失敗してみないと、どこが限界点なのかを見極めることができないからです。その言葉の通り、なかまたちはちゃんと失敗してくれましたよ(笑)。
だからこそ、今回のバイオガスプラント実証開始にまでこぎつけることができました。失敗から得たノウハウこそが、この前例のない取り組みに導いてくれたと確信しています。