モノづくり コトづくり ヒトづくり ダイハツのDX事例

ダイハツ工業が掲げるスローガン
「Light you up」を実現するために主軸とする
「モノづくり」「コトづくり」「ヒトづくり」
の観点でDX取り組み事例をご紹介します。

最新事例

専用AIを求める声に応えて
「D-AI-hatsu Assistant」を公開

生成AIを頼れるパートナーとして活用できるように機能を絞り込んで設計し、説明会で付き合い方について詳しく説明する。

DX推進部 DX推進室
K.Y
取り組み事例
多くの人に生成AIの利便性を伝えて
社内のDX推進を加速していきたい

2022年11月に「ChatGPT」が公開された後、2023年9月にはダイハツ工業も「生成AI利用ガイドライン」を制定し、一定条件のもとで活用できるようになりました。でも、仕事で使うためにはセキュリティ上の課題を解決しなければなりません。誰もが安心して利用できる「ダイハツ専用生成AI」をつくることが、その答えでした、とDX推進室のK.Yさんは話します。ChatGTPをベースに開発されたダイハツ工業オリジナルの「D-AI-hatsu Assistant」は、2024年1月に検証を始めて、2月からトライアルを実施し、翌3月に全社公開しました。

「D-AI-hatsu Assistant」が便利なパートナーであることを理解してもらうためには、付き合い方を詳しく説明する必要があります。K.Yさんはオンラインの「知って、触って」説明会を90回以上開催し、4700名を超えるダイハツ従業員に仕事で利用する際のルールとAIとのコミュニケーションの仕方を丁寧に伝えました。現在、最も多く利用されているのは議事録の要約や翻訳で、メールの文案やプログラムコードの作成へと用途が広がりつつあります。2024年7月にChatGTPがバージョンアップしたことで画像データが扱えるようになりました。画像や写真をもとに検索をかけたり、文字情報をテキストとして抽出できるようになるなど性能が向上し、さらに使いやすくなりました。便利な生成AIを誰でも気軽に使えるようにすることがDX推進室の使命だとK.Yさんは言います。できるだけ多くの人に生成AIの便利さを知ってもらえれば、自然に社内のDXを推めることができる。DX推進室は、これからも「D-AI-hatsu Assistant」の普及に取り組んでいきます。

「D-AI-hatsu Assistant」のような生成AIそのものが、「人にやさしいみんなのデジタル」だと思っています。生成AIを使うのに、プログラムの技術やデータサイエンスの知識は必要ありません。手伝ってほしいことを言葉で伝えれば誰でも簡単に利用できます。また、業務の効率を上げるだけでなく、先輩や同僚の代わりに悩みを相談することもできます。人に相談するよりAIに話す方が抵抗がないため、一人ひとりのメンタルに寄り添って支える役割も果たせるでしょう。D-AI-hatsuという社名の中にAI(愛)があるように、AIをもっと身近に感じていただけると嬉しいですね。

ローコード開発で
“使える”HPとアプリを自作

現場の要望を知るプロだからこそ実現できた開発のスピードと利便性。遊び心にあふれたデザインが目指すのは日々使う楽しさ。 

京都工場 製造部組立課
U.T
取り組み事例
現場の要望を満たしながら
楽しく使えるようにこだわる。

工場の製造現場においては、QCC(※1)やTPS(※2)による業務改善を繰り返して行い、作業の効率化とともに品質向上を目指して努力を続けてきました。しかし、PCで行う業務は今でもExcelの出力紙に手書きをするなどデジタル化が遅れ、ものづくりに必要な情報を共有しにくいなどの課題があります。

AI研修の1期生として学んだ製造部組立課のU.Tさんは、Microsoft 社のファイル・情報共有サービスであるSharePointを使ってポータルサイトを作成できることを知りました。そこで、勤怠管理やPHSの番号一覧、ラインの稼働状況や目標達成率などの情報をリアルタイムで確認し、ローコード開発で作った工具管理アプリなどにアクセスできる課のホームページを立ち上げたのです。アプリを含めて開発期間は約1年。季節ごとにトップページの画像が変わったり、犬の写真がボタンになっていたり、遊び心にあふれたデザインになっています。スマートフォンのように直観的に操作が理解できないと利用してもらえないと語るU.Tさん。実際に現場の作業に携わっているから、何の情報をどんな形で提供できればいいか、要求を満たす完成度ギリギリの線がわかる。完璧なものでなくても、リリースしてから手直しすればいい。外部の業者に発注したら、コストも時間もかかるし、楽しく使えるものにならないと笑うU.Tさん。今後は現場の要望に応えて少しずつ機能を追加し、社内のさまざまな部署で利用しているアプリをみんなで使えるようにするほか、Office365との連携など便利な使い方を工場全体に広めていく予定です。

(※1)Quality Control Circle 品質管理を向上させるための改善活動
(※2)TOYOTA Production System ムダを徹底的に排除し、利益を最大化するための生産方式

仕事は面白くないとダメだと教えられてきましたが、デジタルも同じだと思います。機器やシステムが楽しく簡単に使えて、その便利さを実感できなくては定着しません。社内でさまざまなDXの取り組みが行われていますが、いち早く実装して成果を上げていることに自信を持っています。このポータルサイトを中心に、工場内の連携を深め、新しい仕事や価値を生み出すことが目標です。最近、若手が志願して開発に加わってくれました。一人ひとりの理解や興味を深めていくことで、デジタルが人にやさしくなると思います。

QRコードで実現する
備品管理のデジタル化

プログラム初心者が言語の習得から始めて、備品管理の効率化を推進するアプリを開発。実装によりアナログ管理の課題解決へ。

DX推進部 DX推進室
N.T
取り組み事例
手書きの帳票管理から
スマホでタッチするだけの手軽さに

DX推進室が業務の効率化を進めるうえで、多くの部署で解決すべき課題になっていたのが備品管理です。デジタルカメラや各計測器などの備品の貸出は、それぞれの部署でExcelで作った帳票を印刷して、手書きで管理していました。しかし、それでは誰がいつまでどの備品を借りているのか担当者にしか把握できません。手書きによる転記やチェックのミスに加えて、照会に時間がかかるという問題もありました。

DX推進室で備品管理のアプリ開発を任されたN.Tさんは、プログラムに関してはほとんど経験のない初心者でした。そこで、Daihatsu Digital Innovatorsのアプリ開発研修第2期に参加し、Flutter(スマホのアプリ開発に特化したフレームワーク)で使用されるDartという言語を学びます。アプリ開発においては、備品の管理者、貸出担当者、承認を行う上長など、備品貸出に関わる人々が何をしているかを時系列に並べて機能を決めていくユーザーストーリーマッピングという手法を採用しました。まず、管理者が備品を登録すると生成されるQRコードを備品に貼り付けます。それをスマホで読み取って情報を確認するだけで棚卸は完了です。貸出の際には、利用開始日と返却日を選択すればメールソフトが起動して、上長に承認申請のメールが届いて手続き終了です。業務のDXに対して、なんとなく苦手意識を持ってしまい、消極的になる人が多いかもしれません。アナログで管理するよりも楽で効率がいいことを現場の方々に実感していただきながら、一歩ずつ着実に進めていきたいとN.Tさんは語ります。

誰もが当たり前のように、自然に触れて簡単に操作できるのが「みんなのデジタル」だと思っています。多くの人は仕事でExcelのマクロは使いこなしているのに、プログラムやアプリと聞くだけで、つい腰が引けてしまいます。私たちが作った備品管理アプリの便利さを知って、そのハードルを越えてもらいたいですね。備品管理はどの部署でも共通の課題になっているので、早く実装して全社に普及させたい。社内で実績を重ねてアプリの完成度を高めたら、将来的に製品として販売することが目標です。

AIを活用した塗装膜厚
自動測定アプリを開発 ※塗料を対象物に塗布した後、完全に硬化した後の状態における塗膜の厚み

予備知識ゼロから3カ月半で、膜厚測定の作業時間を50%削減するアプリを開発。技術レベルに関係なく、誰でも測定可能に。

車両生技部 塗装生技室
K.T
取り組み事例
膜厚測定を少しでも楽にしたい!

バンパ塗装は塗膜の厚さの規格が決まっていて、プライマ・ベース・クリアという3層の膜厚を適正に保てないとタレや剥がれなどの不具合が起きてしまいます。このバンパ塗装の工程を自動化するために必要な膜厚の測定は、人の手で行っています。特に3層の識別は顕微鏡を使って目で見て判断するため、時間がかかるうえに測定者の熟練度により誤差が発生しやすいという課題がありました。

測定者の技術や経験に頼っている塗膜層の識別と膜厚測定を、AIを使って自動化できないだろうか、と考えた塗装生技室のK.Tさんは、タイミングよく開催された社内のAI道場に参加します。プログラミングの経験はありませんでしたが、AI道場でPythonを学びながらわずか3カ月半でアプリを作成したのです。予備知識ゼロだったので、DX推進室のサポートを受けながら手本となる教師画像を作成し、AIに学習させるところからスタートしました。100枚くらいの教師画像を学習させた段階では識別の精度はかなり粗いものでした。でも、画像を徐々に増やして200枚を超えると、実際に使えるレベルにまで達したのです。今までは90ヵ所の膜厚測定をする場合、1時間半ほどの作業時間が必要でしたが、自動測定アプリを使えば45分で済みます。もう塗膜層の識別で判断に悩む事もありません。作業時間を50%減らせるだけでなく、熟練した技術や経験を持たない人でも簡単に測定できます。現場でサンプルアプリを評価してもらったところ、とても好評で早く使いたいと期待する声も寄せられました。今後は識別できていない塗色やアプリの操作性を改善しながら、できるだけ早く現場へ実装することを目指します。

もし、AIに仕事を奪われてしまうと警戒しているなら、それは大きな誤解です。私は今回のアプリ開発の経験を通じて、AIは「みんなの“困った”を助ける相棒」であることを実感しました。AI道場に参加して、膜厚測定をもっと簡単にできないかと考えたのは、私自身が樹脂バンパの膜厚測定を担当していたからです。アプリ開発においては素人でしたが、開発が行き詰った時にはDX推進室やAI道場で知り合った人たちとの繋がりに助けられ、実用の目途を立てることができました。デジタルは決して無機質なものではなく、人と人を結び関係を深める役割を果たすと思っています

クレイモデルからVRへ
進化するデザイン調査 ※自動車の形状を検討する際に作られる、工業用の粘土で形状を作るデザインモデル

VR活用により国内外で実地するデザイン調査のコストを大幅に削減。車体や内装を変えられるなど、VRならではの体験が好評。

デザイン部
T.M/K.Y/Y.M
取り組み事例
VR映像の画質向上により
色も形もリアルに体験できる。

VRやメタバースの技術革新は、デザインだけでなくさまざまな業務への活用が期待されています。たとえば、国内外でユーザーを対象としたデザイン調査を実施する時には、実物大のクレイモデルを会場に持ちこんでいます。海外で行う調査では輸送コストの負担が大きく、温度や湿度の影響で破損することが問題になっていました。さらに、コロナ禍で100人を超えるユーザーを会場に集められなくなったこともあり、2020年にVRを活用したデザイン評価を実現するプロジェクトがスタートしたのです。

しかし、社外のネットワーク環境でもVR画像の品質を下げずに、精度の高い調査が可能なのかという慎重な意見もありました。その課題を解決したのが、一般の商用ネットワークを介してVRゴーグルへクラウド上の映像データを配信する今回のプロジェクトです、と語るデザイン室のK.Yさん。クラウドベースのVR調査はネットワークの設備投資をする必要がなく、同時に何人かのグループに対してVR映像を展開できることも大きなメリットだと言います。さらに、車体のカラーバリエーションや内装のバージョンを変えられるという、VRならではの価値も提供できます。実際にVR調査を体験した多くのお客様からは、「色も形もリアル」「カタログで見るよりわかりやすい」といった好意的な意見が寄せられました。外観デザインについては87.5%の方が、内装デザインについては95%の方が問題なく評価できると答えています。評価コストも国内(関西圏)で42%、海外では72%低減が可能となります。デザイン室ではこの結果をもとに、VRデザイン調査の実用化を推進していきます。

VRデザインによる調査を実装できれば、お客様に大きな会場に集まっていただく必要がなくなります。PCとVRゴーグルを車に積んでキャラバンのように巡回できるので、地方の方や子育てで忙しい方など、今まで声を聞けなかった方々の意見を車づくりに生かせるようになるでしょう。店舗では確認できないカラーバリエーションや内装に関するグレードの違いも体感できます。VRをはじめとするデジタル技術は、私たちとお客様のコミュニケーションの機会を増やし、深く豊かなものにしてくれます。私たちのつくる車が、人にやさしいみんなのものになるように。

その他の事例

現場発想でアプリやシステムを内製
取り組み事例
現場の求める機能を全て実現した
AIによる不具合検出システム。

ダイハツ工業京都(大山崎)工場では、現場の困り事を解決するために塗装課の改善担当のN.KさんがAIやBIを活用したソフトウエアやアプリの内製に取り組んでいます。

もともと塗装のライン作業に携わっていたN.Kさんは2021年に会社のAI講習会に参加して、その仕組みやプログラムを学びました。研修の過程で自動車のフロアパネルに貼るメルシート(※1)の不具合を確実に検出し、市場への流出を防止するシステムの開発に着手。WEBカメラとPC1台という最小限の設備投資でAIによる異常検知を実現したのです。「ポカヨケ(※2)にAIなんか要らない」、「メンテナンスの手間が増えるのは困る」という意見もあった中で、N.Kさんは丁寧にコミュニケーションを重ねて思いを伝え、理解を得るために努力しました。「現場からの要望を全て実現した」とN.Kさんが語る異常検知システムは、車種や色など生産サイドの変化にも対応できる使いやすいものに仕上がり、現場の好評を博しています。

N.KさんがAI講座を受けたのと同じ2021年に京都(大山崎)工場の設備が刷新され、IoT環境が整備されたことも開発を後押ししました。その後もN.Kさんは現場の声に応えて次々にアプリを開発し、現場のDX推進を加速させています。

(※1) 自動車の底面などに取り入れる防音・防振・防熱用のシートのこと
(※2) 製造ラインに設置される、作業ミスを防止する仕組みや装置のこと

担当者の想い
みんなのためにという想いを大切にしたい。

アプリやソフトウエアを内製することのメリットは、コスト面やスピードだけでなく、現場の声を的確に反映できることにあります。

私が開発を手がける際に心がけているのは、何かしらオリジナリティ、自分なりの付加価値をつけることです。その根底にあるのは、もっと現場の作業を楽にしたいという想い。作業する人たちに喜んでもらおうという一心で取り組んでいます。自分が作りたいものではなく、できるだけ多くの人が使って助かるものを作るのが私の役割です。

DXによる課題解決の答えは一つではありません。同じテーマに取り組んでも開発者によって全く違うものになります。だからこそ想いは大切であり、DXを社内に浸透させるうえで欠かせない要素なのです。

京都(大山崎)工場 塗装課
N.Kさん
現場の作業を経験してきた担当者が自らアプリやソフトウエアを内製しているのが「ダイハツらしさ」であり、「人にやさしいデジタル」を具現化していると考えています。つい最近に実装した出退勤の管理システムは塗装課350人全員が利用するインフラなので大きな反響がありました。質問や要望も来るようになり、DXが普及する手応えを感じています。現場の声に応えて、現場の手でつくる。それが「みんなのデジタル」だと思います。
BIツール活用でフードロス削減
取り組み事例
人事が蓄積した膨大なデータを
可視化してエビデンスに変える。

食糧自給率の低い日本において、フードロスの削減は重要な社会課題になっています。ダイハツ工業の人事部では、2022年5月からSDGsの取り組みの一環として、本社の食堂を対象としたフードロスへの取り組みをスタート。新たな取り組みの担い手に抜擢されたのは、福利厚生担当のT.Kさんです。

T.Kさんは以前から毎日の出勤者数のデータを食堂の準備数に反映させて、フードロスを削減する方法を検討していました。人事に蓄積されている膨大なデータから、未来を予測できればいいと考えたT.KさんはAI活用相談会で、車両性能開発部のI.Kさんを紹介してもらいました。I.Kさんは週に1日だけDX推進室の業務に就く社内複業制度の利用者です。I.Kさんのアドバイスにより、AIを活用する前にTableau(タブロー)というBIツールを使ってデータを可視化し、現状を分析することになりました。雨天や気温の高い日に食堂利用者が少ないことなど、今までなんとなく感じていたことが、データの可視化によってエビデンスに変わります。食堂のフードロスをゼロにするのは難しい。限りなくゼロに近づけるためには廃棄される食材の利用が必要なことがわかりました。膨大なデータを前に、まずは最も廃棄量の多い御飯に焦点を絞って仮説を立て、検証するための分析を進めています。

担当者の想い
データという宝の山を生かすために。

いま、全事業部で年間80トンの生ごみが発生しています。生ごみの廃棄を減らすために、最も身近な本社の食堂を入口にしてフードロス削減を実現し、そのスキームを横展開していきたいと考えたことが、今回の取り組みのきっかけでした。まだデータの分析段階ですが、給食業者の協力によるメニュー開発など、有効と思われる打ち手が少しずつ見えてきました。

今回、Tableauを使ってデータを可視化したことで、改めて人事が蓄積しているデータは宝の山だと気付きました。それをどう生かしていくかを考えるのが、これからの私たちの課題だと思います。AIやBIの活用により、社員が生き生きと働ける環境づくりに貢献したい。そのために、もっとAIやBIを使いこなせるように知識を学び、スキルを高めるために努力を続けます。

人事部 人事室 労務厚生G
T.Kさん
AIやBIの知識が何もなかった私が、半年でTableauを使ってデータを分析できるようになったのは、I.KさんやDX推進室の方々が丁寧に指導してくださったからです。上司をはじめ多くの人から手厚いサポートを受けられたのは、全社を挙げてDX推進に力を入れているからだと思います。最初は難しそうに見えても、多くの人と繋がることによってデジタルはやさしくなり、みんなのものになっていく。「人にやさしいみんなのデジタル」は、風土環境から産まれるものだと思います。