モノづくり コトづくり ヒトづくり ダイハツのDX事例

ダイハツ工業が掲げるスローガン
「Light you up」を実現するために主軸とする
「モノづくり」「コトづくり」「ヒトづくり」
の観点でDX取り組み事例をご紹介します。

最新事例

簡単なコードに触れて
プログラムを身近に

よく使う機能を自動化するプログラムをローコード化して提供し、初心者へのプログラム普及を推進。

滋賀2工場 第二製造部
技術室 DX推進グループ
Y.A
取り組み事例
さまざまな自動化の要望に
たった17行のコードで応える。

DX推進グループのY.Aさんは、さまざまな業務のDX導入を支援するほか、AIなど新しい技術の認知・浸透や教育も担当しています。滋賀2工場内の各部署がDXに取り組むなかで、プログラムを作成してほしいという依頼も増えてきました。しかし、同じようなプログラムを何度も依頼されることが多く、その都度対応していても汎用性がありません。さらに、ただ作って渡すよりも、DXの浸透に貢献できる方法はないだろうか?とY.Aさんは考えました。

「検査AIの画像ファイルを移動したい」「PowerPointの自動読み上げを組み込みたい」など、Y.Aさんは毎日のように自動処理プログラムの相談を受けます。最も多いのが、WebシステムからCSVファイルをダウンロードして規定のフォルダに移動させるプログラムの依頼です。Y.Aさんは、ファイルやフォルダの移動、キーボード入力など、よく使う6つの機能を自動処理するプログラムを最小限のソースコードで作り、提供することにしました。ブラウザが立ち上がって、新規タブが開いて自動入力し、HPを読み上げてメッセージを入力した後にブラウザを閉じる。それだけの複雑な作業も、たった17行のコードで処理できます。DX推進グループでは、プログラミングの普及も課題の一つになっています。Y.Aさんは、プログラム初心者でも、見ればどの部分に命令を書けばいいかわかるように心がけました。自分が書いたコードが動く喜びを感じて、プログラムに興味を持つきっかけをつくるためです。コードを提供し始めて、自動化の需要が想像以上に多いことを知ったY.Aさん。もっと多くの人が利用して、プログラムに親しんでもらうことを目指しています。

2013年に私が入社したばかりの頃、まだDXという言葉がトレンドになるずっと前から、みんなが早く仕事を終わらせて、家に帰って家族と過ごしたり、趣味を楽しんだりする時間を増やすためにデジタルを導入したい、と思っていました。従来のやり方を変えるには大きなエネルギーが必要なうえに、難しそうでよくわからないとデジタル化を敬遠されることもありましたが、ようやく追い風が吹いてきました。DX推進室の活動や、事例発表会の開催なども、その一例です。私自身も「みんなのデジタル」を実現するための取り組みを続けていきたいと考えています。

熟練者のカンコツを
AIに学ばせる難しさ

経験を積んだベテランにしかできない、最高難度の検査をAIと連携することで、よりクリエイティブな環境の実現へ。

デザイン部 モデルクリエイト室
O.M
取り組み事例
高難度の検査はAIに任せて
人をもっと創造的な仕事へ。

デザイン部のO.M さんは、AIをはじめとする新しい技術の導入・活用に取り組んできました。既に部内ではスケッチの採色やモデルの部分的な形状変更などに生成AIを利用しています。しかし、モノづくりの現場における本格的な活用事例はまだないことから、ハイライトチェックという難しい検査へのAI活用に挑戦しました。

ハイライトチェックとは、モデルの意匠面に一定の角度から光線をあてて、反射する光の流れ方を見て正常な形になっているのかを判断する検査です。経験豊富なベテランのカンコツに頼る作業で、誰もができるわけではありません。しかし、膨大な量の線情報をあらゆる方向からチェックするので、ベテランでも見落としの可能性があります。O.M さんは、この最高難度のチェックをAIと連携できれば、他のカンコツ作業にも応用できると考えました。まず、人が不良を認知するプロセスと同じように、広い範囲から段階的に情報を与えてAIに学習させましたが、うまくいきません。次に、AIが判定しやすい範囲に情報を絞ったところ、検知レベル1とされているスムーズな一枚面については、人がチェックするのと変わらない精度の結果を得ることができました。複数の面で構成されたレベル2や複数の立体で構成されたレベル3になると誤検知や見逃しが発生するので、そこが今後の課題になっています。試行錯誤の末にレベル1をクリアしたことで、属人性の高いカンコツ作業にAIを活用する手応えを感じたO.M さん。情報の与え方が学習の精度に影響することからAI自身が答えを見つける方法を学ぶディープラーニングでのアプローチを考えています。時間のかかる工程はAIと連携して、業務の効率や意匠と製品の品質向上を目指します。

私がAIに学ばせたハイライトチェックのような検査は、限られた時間のなかで目や頭を酷使する、とても大変で大事な仕事です。ベテランのカンコツを検査だけでなく、もっと創造的なところで発揮していきたい。その思いが今回の取り組みの動機になりました。部内にはまだアナログな作業が多く残っているので、AIを活用して、どんどん自動化していきたいと考えています。AIやアプリで人を単純な作業から解放して、時間をもっと有効に、もっとクリエイティブに使えるような環境にしていく。そのための力が、私にとってのデジタルです。

カギ自動貸出システムで
効率化と管理強化を実現

より「正しい仕事」を実現するために、認証車両カギの貸出・返却の管理強化と業務負荷の大幅な削減という難題をシステムで解決。

くるま開発本部 開発基盤開拓部
池田統括
K.H
取り組み事例
貸出・返却を自動化して
年間1,500時間の作業を削減。

滋賀テクニカルセンターでは、試験に使う認証車両のカギを貸し出す際に、紙の申請台帳を書いて提出する必要がありました。また、担当者から手渡しでカギを受け取るため、担当者が不在の場合は手続きができません。しかも、カギを貸し出す場所と認証車両の試験場は歩いて3,000歩も離れているうえに、カギを借りる際に本当に試験責任者の許可を得ているかを貸出担当者に証明するのも難しいという問題もありました。

九州開発センターでは備品の自動貸出機が内製・運用されていたため、その事例を参考に「カギの予約・貸出システム」開発に取り組むことにしました、と開発基盤開拓部のK.Hさんは語ります。IT専門グループの一員として、さまざまなDXに取り組んでいます。K.Hさんは車両の試験が集中する前に現場に実装して、業務の効率を上げたいという思いから、3カ月という短期間での開発に挑みました。必要な機能を短期間で実現するために選んだのは、既存のシステムのカスタマイズではなく、ゼロから予約システムを作るフルスクラッチ開発です。一方で、カギの自動貸出機の本体は内製するより、外製品を購入して改造した方が早いと判断しました。こうして、カギの使用予約・試験責任者の承認・貸出・返却までをすべてシステム化し、自動貸出機を4カ所に設置。人の移動時間も含めた効率化の結果、年間1,500時間もの工数削減を実現しました。さらに、返却忘れには自動でメールを発信するなど、人手をかけない管理を可能にしました。カギを借りにきた人が試験管理者の許可を受けていることの確認も社員証と承認を紐づけることで解決し、「正しい仕事」の精度を高められたことが最大の収穫です、とK.Hさんは語ります。

私たちが今よりもっと「正しい仕事」をするためには、管理やチェックの精度を高める必要があります。しかし、それを人の手で行うと、現場の負担が増えてしまうのが現実です。この課題を解決する鍵が「デジタル」です。ただし、単純にシステム化するのではなく、業務全体の見直しを現場の人と膝を突き合わせて議論し、その結果に対して上手く「デジタル」を取り入れることが重要です。「やめる・変える・減らす」によって人の負荷を減らしつつも、より高度な管理やチェックを実現することで「正しい仕事」を追求する。それこそが、私たちが目指す“みんなのデジタル”です。

営業メンバーでやり遂げた
データドリブン環境の構築

販売会社さんが意思決定するために必要なデータの収集・加工・ビジュアライズをBIツールでサポート。

営業CS本部 VC事業部
VC企画室
Y.T
取り組み事例
中古車事業を越えて
幅広い分野へ展開したい。

ダイハツの自動車を扱う販売会社さんは全国に58社あり、車の販売やメンテナンスを行っています。各販売会社さんは来店者数・来店動機・契約台数など日々の営業活動から得たデータを分析し、経営層の意思決定に利用しています。しかし、手作業で行うデータの整理に時間を要するため、戦略の策定や実行に十分な時間をかけられていませんでした。VC企画室のY.Tさんは、これを自分たちが解決すべき問題と捉え、最新データを効率的に収集・分析してデータドリブン環境を提供するために、BIツールを活用した販社連携に取り組みました。

Y.Tさんは販売会社さんが利用している基幹システムのデータと外部から取り込んだデータを結合し、グラフ化するダッシュボードを作りました。朝、PCを立ち上げるだけで昨日までの仕入れ・在庫・販売台数から収益まで、瞬時に見て自社の状況を把握することができます。従来は数字をエクセルに手入力し、集計するだけで30分以上かかっていたのです。BIツールで作ったダッシュボードを首都圏にある3つの販売会社さんで試験的に使用してもらった結果、データの集計から意思決定までに要する時間を70%削減できました。2025年6月から全ての販売会社さんに無償で提供し、3カ月の試用期間を経て有償化する予定です。今回の開発を手がけたメンバーは中古車の営業担当で、ITに関しては全員が素人だったので、要件定義に苦労し、ダッシュボードを1つ作るのに2カ月かかりました。外注すればスピードアップできますが、販売会社さんの業務を深く理解していないと、使い勝手のいいものになりません。将来的には販売会社さんの許諾を得て、エリアや車種別の全体データも提供していきたいとY.Tさんは考えています。中古車だけでなく、新車や部品、サービス、保険など、さまざまな営業分野で活用し、事業として成長する可能性を持ったシステムなのです。

いま、あらゆる業界・業種において、最も深刻な問題が人手不足です。販売会社さんにおいても、サービススタッフが足りないためメンテナンスの需要に応えきれないという声をよく聞きます。商機を逃さないためには、業務の負荷を軽減して一人当たりの生産性を上げるしかありません。それを可能にするのがDXだと思います。限られた時間を、作業ではなくお客様への営業活動に集中して満足度を高めれば、自社の価値を上げることに繋がります。販売会社さんにも、その先のお客様にも、当社にとってもやさしいデジタルを目指して努力します。

自作のBIアプリ活用で
報告書作成時間を短縮

毎年1カ月かかっていた検査法監査年間計画書の作成を3日に短縮し、1年を通じて監査業務を行うことが可能に。

車両品質管理部 滋賀技術室
O.M
取り組み事例
必要な部品の情報へ
ワンクリックでアクセス。

部品メーカーの監査を担当しているO.Mさんは、滋賀工場で使う約8,000種類の部品について、メーカーを選定して仕入先と時期を決め、検査法監査年間計画書を作成しています。毎年この計画書の作成に1カ月かかるため、メーカーの工場を訪問して監査を行う期間が11カ月になってしまい、1カ月のロスが発生していたのです。計画書を短期間で作成するために、O.Mさんは全く経験のないBIアプリづくりに挑戦しました。

最初は Data RobotなどAIを活用することも考えたO.Mさんでしたが、初心者が挑戦するにはハードルが高かったので、データの収集・分析・可視化に特化したBIアプリを選びました。知識ゼロの状態からYouTubeで勉強しましたが、悩んだり迷ったりする時間が惜しいと感じ、わからないことはすぐに滋2技術室Y.Aさんに相談したとO.Mさんは言います。その結果、BIアプリはわずか1カ月で完成。ボタンをクリックするだけで必要な情報へアクセスできるようになりました。膨大な種類の部品一つひとつについて、A社のB工場で製造している、という情報をマップ付きで表示できます。工場を訪問して監査するルートも、マップを見ながら路線に沿って効率的な計画を立てられます。さらに、計画書の作成期間を1カ月から3日へと劇的に短縮したことで、12カ月をフルに使って監査できるようになりました。2024年は36社が限界だった訪問先も2025年は45社を予定しています。O.Mさんが作ったアプリは商品マスターを車種ごとにフォルダ化しているので、フォルダを追加すれば新しい車種を登録できます。今後は、京都や他の工場とBIアプリを共有して、計画書作成の効率化と部品データの精度向上を推進したい、とO.Mさんは話します。

アプリやツールを開発したら、自分たちだけでなく管理や営業など他部門と共有・更新していくことで活用範囲を広げられると考えています。もし、大規模な自然災害が発生して取引先の工場が被災したら、そこで当社の部品を製造しているのかを確かめる必要があります。私が作ったBIアプリなら1分足らずでわかるため、先方への確認に時間をかけずにBCP(事業継続計画)に基づいて迅速に対応することが可能です。自分たちの困り事を解決するだけでなく、部門を越えて幅広い業務のさまざまな課題解決に貢献していく。それがみんなのデジタルだと思います。

収集・分析を自動化し
組織の生産性を向上

品質課題に関する膨大な情報のリアルタイム処理を「Tableau」で自動化して、限られたリソースの有効活用を実現。

くるま開発本部 QCT
統括グループ
I.T
取り組み事例
10時間かかるデータ分析も
クラウド「Tableau」が数分で完了。

I.Tさんが所属するQCTでは、品質に関する課題について、世界中の市場から情報を収集し分析を行っています。データ整理からグラフ作成まで手作業で、週に10時間以上を費やすこともありました。こうした非効率を解消するため、I.Tさんはクラウド上の「Tableau」プラットフォームを導入しました。

品質課題の早期発見と迅速な対応を求められるEDER(Early Detection and Early Resolution)においては、作業時間の短縮が急務になっていました。手作業で行う工程を減らして生産性を上げるために、データ分析の効率化が課題になっていたのです。I.Tさんは、収集した情報をクラウド上の「Tableau」プラットフォームに上げて可視化する工程を自動化し、データ分析を数分で行えるようにしました。さらに、この「Tableau」プラットフォームを部のメンバー全員が利用できるように環境を整備しました。メンバーがいつでも最新情報にアクセスできることから、毎週配布していた報告書も作る必要がなくなりました。データ分析に費やしていた時間を他の業務にあてられるので、組織の生産性向上にも貢献しています。データの切り口を変えたり、絞り込みを行いたい時も画面をクリックするだけなので、グラフを作り直す必要はありません。メンバー全員が見たいデータを選び、深掘りできるようになったことから、部内のデータリテラシーを高める効果も期待できます。現状は国内のデータだけなので、海外のデータへの対応を進めている最中ですと話すI.Tさん。国内外すべてのデータについて収集・分析が可能になったら、品質保証部など関連部署と連携して利用範囲を広げていく予定です。

「人にやさしいみんなのデジタル」を実現するには、誰もが自然にさまざまなデータを活用できる環境を整えることが重要です。QCTでも、できるだけハードルを低くしてツールやシステムの導入を進めていますが、まだ抵抗感を持っている人もいます。すべてのメンバーが苦手意識を克服して、DXの便利さを享受してもらいたい。それには、業務上使わざるを得ない仕組みにDXを導入して、半ば強制的に慣れてもらうことも必要だと考えています。この「Tableau」プラットフォームをきっかけにして、多くの人がDXに親しみを持ってくれたらうれしいですね。

2024年

専用AIを求める声に応えて
「D-AI-hatsu Assistant」を公開

生成AIを頼れるパートナーとして活用できるように機能を絞り込んで設計し、説明会で付き合い方について詳しく説明する。

DX推進部 DX推進室
K.Y
取り組み事例
多くの人に生成AIの
利便性を伝えて
社内のDX推進を加速していきたい

2022年11月に「ChatGPT」が公開された後、2023年9月にはダイハツ工業も「生成AI利用ガイドライン」を制定し、一定条件のもとで活用できるようになりました。でも、仕事で使うためにはセキュリティ上の課題を解決しなければなりません。誰もが安心して利用できる「ダイハツ専用生成AI」をつくることが、その答えでした、とDX推進室のK.Yさんは話します。ChatGTPをベースに開発されたダイハツ工業オリジナルの「D-AI-hatsu Assistant」は、2024年1月に検証を始めて、2月からトライアルを実施し、翌3月に全社公開しました。

「D-AI-hatsu Assistant」が便利なパートナーであることを理解してもらうためには、付き合い方を詳しく説明する必要があります。K.Yさんはオンラインの「知って、触って」説明会を90回以上開催し、4700名を超えるダイハツ従業員に仕事で利用する際のルールとAIとのコミュニケーションの仕方を丁寧に伝えました。現在、最も多く利用されているのは議事録の要約や翻訳で、メールの文案やプログラムコードの作成へと用途が広がりつつあります。2024年7月にChatGTPがバージョンアップしたことで画像データが扱えるようになりました。画像や写真をもとに検索をかけたり、文字情報をテキストとして抽出できるようになるなど性能が向上し、さらに使いやすくなりました。便利な生成AIを誰でも気軽に使えるようにすることがDX推進室の使命だとK.Yさんは言います。できるだけ多くの人に生成AIの便利さを知ってもらえれば、自然に社内のDXを推めることができる。DX推進室は、これからも「D-AI-hatsu Assistant」の普及に取り組んでいきます。

「D-AI-hatsu Assistant」のような生成AIそのものが、「人にやさしいみんなのデジタル」だと思っています。生成AIを使うのに、プログラムの技術やデータサイエンスの知識は必要ありません。手伝ってほしいことを言葉で伝えれば誰でも簡単に利用できます。また、業務の効率を上げるだけでなく、先輩や同僚の代わりに悩みを相談することもできます。人に相談するよりAIに話す方が抵抗がないため、一人ひとりのメンタルに寄り添って支える役割も果たせるでしょう。D-AI-hatsuという社名の中にAI(愛)があるように、AIをもっと身近に感じていただけると嬉しいですね。
ローコード開発で“使える”HPとアプリを自作

現場の要望を知るプロだからこそ実現できた開発のスピードと利便性。遊び心にあふれたデザインが目指すのは日々使う楽しさ。

都工場 製造部組立課
U.T
取り組み事例
現場の要望を満たしながら
楽しく使えるようにこだわる。

工場の製造現場においては、QCC(※1)やTPS(※2)による業務改善を繰り返して行い、作業の効率化とともに品質向上を目指して努力を続けてきました。しかし、PCで行う業務は今でもExcelの出力紙に手書きをするなどデジタル化が遅れ、ものづくりに必要な情報を共有しにくいなどの課題があります。

AI研修の1期生として学んだ製造部組立課のU.Tさんは、Microsoft 社のファイル・情報共有サービスであるSharePointを使ってポータルサイトを作成できることを知りました。そこで、勤怠管理やPHSの番号一覧、ラインの稼働状況や目標達成率などの情報をリアルタイムで確認し、ローコード開発で作った工具管理アプリなどにアクセスできる課のホームページを立ち上げたのです。アプリを含めて開発期間は約1年。季節ごとにトップページの画像が変わったり、犬の写真がボタンになっていたり、遊び心にあふれたデザインになっています。スマートフォンのように直観的に操作が理解できないと利用してもらえないと語るU.Tさん。実際に現場の作業に携わっているから、何の情報をどんな形で提供できればいいか、要求を満たす完成度ギリギリの線がわかる。完璧なものでなくても、リリースしてから手直しすればいい。外部の業者に発注したら、コストも時間もかかるし、楽しく使えるものにならないと笑うU.Tさん。今後は現場の要望に応えて少しずつ機能を追加し、社内のさまざまな部署で利用しているアプリをみんなで使えるようにするほか、Office365との連携など便利な使い方を工場全体に広めていく予定です。

(※1)Quality Control Circle 品質管理を向上させるための改善活動
(※2)TOYOTA Production System ムダを徹底的に排除し、利益を最大化するための生産方式

仕事は面白くないとダメだと教えられてきましたが、デジタルも同じだと思います。機器やシステムが楽しく簡単に使えて、その便利さを実感できなくては定着しません。社内でさまざまなDXの取り組みが行われていますが、いち早く実装して成果を上げていることに自信を持っています。このポータルサイトを中心に、工場内の連携を深め、新しい仕事や価値を生み出すことが目標です。最近、若手が志願して開発に加わってくれました。一人ひとりの理解や興味を深めていくことで、デジタルが人にやさしくなると思います。
QRコードで実現する備品管理のデジタル化

プログラム初心者が言語の習得から始めて、備品管理の効率化を推進するアプリを開発。実装によりアナログ管理の課題解決へ。

DX推進部 DX推進室
N.T
取り組み事例
手書きの帳票管理から
スマホでタッチするだけの
手軽さに

DX推進室が業務の効率化を進めるうえで、多くの部署で解決すべき課題になっていたのが備品管理です。デジタルカメラや各計測器などの備品の貸出は、それぞれの部署でExcelで作った帳票を印刷して、手書きで管理していました。しかし、それでは誰がいつまでどの備品を借りているのか担当者にしか把握できません。手書きによる転記やチェックのミスに加えて、照会に時間がかかるという問題もありました。

DX推進室で備品管理のアプリ開発を任されたN.Tさんは、プログラムに関してはほとんど経験のない初心者でした。そこで、Daihatsu Digital Innovatorsのアプリ開発研修第2期に参加し、Flutter(スマホのアプリ開発に特化したフレームワーク)で使用されるDartという言語を学びます。アプリ開発においては、備品の管理者、貸出担当者、承認を行う上長など、備品貸出に関わる人々が何をしているかを時系列に並べて機能を決めていくユーザーストーリーマッピングという手法を採用しました。まず、管理者が備品を登録すると生成されるQRコードを備品に貼り付けます。それをスマホで読み取って情報を確認するだけで棚卸は完了です。貸出の際には、利用開始日と返却日を選択すればメールソフトが起動して、上長に承認申請のメールが届いて手続き終了です。業務のDXに対して、なんとなく苦手意識を持ってしまい、消極的になる人が多いかもしれません。アナログで管理するよりも楽で効率がいいことを現場の方々に実感していただきながら、一歩ずつ着実に進めていきたいとN.Tさんは語ります。

誰もが当たり前のように、自然に触れて簡単に操作できるのが「みんなのデジタル」だと思っています。多くの人は仕事でExcelのマクロは使いこなしているのに、プログラムやアプリと聞くだけで、つい腰が引けてしまいます。私たちが作った備品管理アプリの便利さを知って、そのハードルを越えてもらいたいですね。備品管理はどの部署でも共通の課題になっているので、早く実装して全社に普及させたい。社内で実績を重ねてアプリの完成度を高めたら、将来的に製品として販売することが目標です。
AIを活用した塗装膜厚※1
自動測定アプリを開発

予備知識ゼロから3カ月半で、膜厚測定の作業時間を50%削減するアプリを開発。技術レベルに関係なく、誰でも測定可能に。

車両生技部 塗装生技室
K.T
取り組み事例
膜厚測定を少しでも楽にしたい!

バンパ塗装は塗膜の厚さの規格が決まっていて、プライマ・ベース・クリアという3層の膜厚を適正に保てないとタレや剥がれなどの不具合が起きてしまいます。このバンパ塗装の工程を自動化するために必要な膜厚の測定は、人の手で行っています。特に3層の識別は顕微鏡を使って目で見て判断するため、時間がかかるうえに測定者の熟練度により誤差が発生しやすいという課題がありました。

測定者の技術や経験に頼っている塗膜層の識別と膜厚測定を、AIを使って自動化できないだろうか、と考えた塗装生技室のK.Tさんは、タイミングよく開催された社内のAI道場に参加します。プログラミングの経験はありませんでしたが、AI道場でPythonを学びながらわずか3カ月半でアプリを作成したのです。予備知識ゼロだったので、DX推進室のサポートを受けながら手本となる教師画像を作成し、AIに学習させるところからスタートしました。100枚くらいの教師画像を学習させた段階では識別の精度はかなり粗いものでした。でも、画像を徐々に増やして200枚を超えると、実際に使えるレベルにまで達したのです。今までは90ヵ所の膜厚測定をする場合、1時間半ほどの作業時間が必要でしたが、自動測定アプリを使えば45分で済みます。もう塗膜層の識別で判断に悩む事もありません。作業時間を50%減らせるだけでなく、熟練した技術や経験を持たない人でも簡単に測定できます。現場でサンプルアプリを評価してもらったところ、とても好評で早く使いたいと期待する声も寄せられました。今後は識別できていない塗色やアプリの操作性を改善しながら、できるだけ早く現場へ実装することを目指します。

もし、AIに仕事を奪われてしまうと警戒しているなら、それは大きな誤解です。私は今回のアプリ開発の経験を通じて、AIは「みんなの“困った”を助ける相棒」であることを実感しました。AI道場に参加して、膜厚測定をもっと簡単にできないかと考えたのは、私自身が樹脂バンパの膜厚測定を担当していたからです。アプリ開発においては素人でしたが、開発が行き詰った時にはDX推進室やAI道場で知り合った人たちとの繋がりに助けられ、実用の目途を立てることができました。デジタルは決して無機質なものではなく、人と人を結び関係を深める役割を果たすと思っています。
クレイモデル※2からVRへ
進化するデザイン調査

予備知識ゼロから3カ月半で、膜厚測定の作業時間を50%削減するアプリを開発。技術レベルに関係なく、誰でも測定可能に。

デザイン部
T.M/K.Y/Y.M
取り組み事例
VR映像の画質向上により
色も形もリアルに体験できる。

VRやメタバースの技術革新は、デザインだけでなくさまざまな業務への活用が期待されています。たとえば、国内外でユーザーを対象としたデザイン調査を実施する時には、実物大のクレイモデルを会場に持ちこんでいます。海外で行う調査では輸送コストの負担が大きく、温度や湿度の影響で破損することが問題になっていました。さらに、コロナ禍で100人を超えるユーザーを会場に集められなくなったこともあり、2020年にVRを活用したデザイン評価を実現するプロジェクトがスタートしたのです。

しかし、社外のネットワーク環境でもVR画像の品質を下げずに、精度の高い調査が可能なのかという慎重な意見もありました。その課題を解決したのが、一般の商用ネットワークを介してVRゴーグルへクラウド上の映像データを配信する今回のプロジェクトです、と語るデザイン室のK.Yさん。クラウドベースのVR調査はネットワークの設備投資をする必要がなく、同時に何人かのグループに対してVR映像を展開できることも大きなメリットだと言います。さらに、車体のカラーバリエーションや内装のバージョンを変えられるという、VRならではの価値も提供できます。実際にVR調査を体験した多くのお客様からは、「色も形もリアル」「カタログで見るよりわかりやすい」といった好意的な意見が寄せられました。外観デザインについては87.5%の方が、内装デザインについては95%の方が問題なく評価できると答えています。評価コストも国内(関西圏)で42%、海外では72%低減が可能となります。デザイン室ではこの結果をもとに、VRデザイン調査の実用化を推進していきます。

VRデザインによる調査を実装できれば、お客様に大きな会場に集まっていただく必要がなくなります。PCとVRゴーグルを車に積んでキャラバンのように巡回できるので、地方の方や子育てで忙しい方など、今まで声を聞けなかった方々の意見を車づくりに生かせるようになるでしょう。店舗では確認できないカラーバリエーションや内装に関するグレードの違いも体感できます。VRをはじめとするデジタル技術は、私たちとお客様のコミュニケーションの機会を増やし、深く豊かなものにしてくれます。私たちのつくる車が、人にやさしいみんなのものになるように。

※1 塗料を対象物に塗布した後、完全に硬化した後の状態における塗膜の厚み

※2 自動車の形状を検討する際に作られる、工業用の粘土で形状を作るデザインモデル

2023年

現場発想でアプリやシステムを内製
取り組み事例
現場の求める機能を全て実現した
AIによる不具合検出システム。

ダイハツ工業京都(大山崎)工場では、現場の困り事を解決するために塗装課の改善担当のN.KさんがAIやBIを活用したソフトウエアやアプリの内製に取り組んでいます。

もともと塗装のライン作業に携わっていたN.Kさんは2021年に会社のAI講習会に参加して、その仕組みやプログラムを学びました。研修の過程で自動車のフロアパネルに貼るメルシート(※1)の不具合を確実に検出し、市場への流出を防止するシステムの開発に着手。WEBカメラとPC1台という最小限の設備投資でAIによる異常検知を実現したのです。「ポカヨケ(※2)にAIなんか要らない」、「メンテナンスの手間が増えるのは困る」という意見もあった中で、N.Kさんは丁寧にコミュニケーションを重ねて思いを伝え、理解を得るために努力しました。「現場からの要望を全て実現した」とN.Kさんが語る異常検知システムは、車種や色など生産サイドの変化にも対応できる使いやすいものに仕上がり、現場の好評を博しています。

N.KさんがAI講座を受けたのと同じ2021年に京都(大山崎)工場の設備が刷新され、IoT環境が整備されたことも開発を後押ししました。その後もN.Kさんは現場の声に応えて次々にアプリを開発し、現場のDX推進を加速させています。

(※1) 自動車の底面などに取り入れる防音・防振・防熱用のシートのこと
(※2) 製造ラインに設置される、作業ミスを防止する仕組みや装置のこと

担当者の想い
みんなのためにという想いを大切にしたい。

アプリやソフトウエアを内製することのメリットは、コスト面やスピードだけでなく、現場の声を的確に反映できることにあります。

私が開発を手がける際に心がけているのは、何かしらオリジナリティ、自分なりの付加価値をつけることです。その根底にあるのは、もっと現場の作業を楽にしたいという想い。作業する人たちに喜んでもらおうという一心で取り組んでいます。自分が作りたいものではなく、できるだけ多くの人が使って助かるものを作るのが私の役割です。

DXによる課題解決の答えは一つではありません。同じテーマに取り組んでも開発者によって全く違うものになります。だからこそ想いは大切であり、DXを社内に浸透させるうえで欠かせない要素なのです。

京都(大山崎)工場 塗装課
N.Kさん
現場の作業を経験してきた担当者が自らアプリやソフトウエアを内製しているのが「ダイハツらしさ」であり、「人にやさしいデジタル」を具現化していると考えています。つい最近に実装した出退勤の管理システムは塗装課350人全員が利用するインフラなので大きな反響がありました。質問や要望も来るようになり、DXが普及する手応えを感じています。現場の声に応えて、現場の手でつくる。それが「みんなのデジタル」だと思います。
BIツール活用でフードロス削減
取り組み事例
人事が蓄積した膨大なデータを
可視化してエビデンスに変える。

食糧自給率の低い日本において、フードロスの削減は重要な社会課題になっています。ダイハツ工業の人事部では、2022年5月からSDGsの取り組みの一環として、本社の食堂を対象としたフードロスへの取り組みをスタート。新たな取り組みの担い手に抜擢されたのは、福利厚生担当のT.Kさんです。

T.Kさんは以前から毎日の出勤者数のデータを食堂の準備数に反映させて、フードロスを削減する方法を検討していました。人事に蓄積されている膨大なデータから、未来を予測できればいいと考えたT.KさんはAI活用相談会で、車両性能開発部のI.Kさんを紹介してもらいました。I.Kさんは週に1日だけDX推進室の業務に就く社内複業制度の利用者です。I.Kさんのアドバイスにより、AIを活用する前にTableau(タブロー)というBIツールを使ってデータを可視化し、現状を分析することになりました。雨天や気温の高い日に食堂利用者が少ないことなど、今までなんとなく感じていたことが、データの可視化によってエビデンスに変わります。食堂のフードロスをゼロにするのは難しい。限りなくゼロに近づけるためには廃棄される食材の利用が必要なことがわかりました。膨大なデータを前に、まずは最も廃棄量の多い御飯に焦点を絞って仮説を立て、検証するための分析を進めています。

担当者の想い
データという宝の山を生かすために。

いま、全事業部で年間80トンの生ごみが発生しています。生ごみの廃棄を減らすために、最も身近な本社の食堂を入口にしてフードロス削減を実現し、そのスキームを横展開していきたいと考えたことが、今回の取り組みのきっかけでした。まだデータの分析段階ですが、給食業者の協力によるメニュー開発など、有効と思われる打ち手が少しずつ見えてきました。

今回、Tableauを使ってデータを可視化したことで、改めて人事が蓄積しているデータは宝の山だと気付きました。それをどう生かしていくかを考えるのが、これからの私たちの課題だと思います。AIやBIの活用により、社員が生き生きと働ける環境づくりに貢献したい。そのために、もっとAIやBIを使いこなせるように知識を学び、スキルを高めるために努力を続けます。

人事部 人事室 労務厚生G
T.Kさん
AIやBIの知識が何もなかった私が、半年でTableauを使ってデータを分析できるようになったのは、I.KさんやDX推進室の方々が丁寧に指導してくださったからです。上司をはじめ多くの人から手厚いサポートを受けられたのは、全社を挙げてDX推進に力を入れているからだと思います。最初は難しそうに見えても、多くの人と繋がることによってデジタルはやさしくなり、みんなのものになっていく。「人にやさしいみんなのデジタル」は、風土環境から産まれるものだと思います。