ダイハツ工業が掲げるグループスローガン
「Light you up」を実現するために主軸とする
「モノづくり」「コトづくり」「ヒトづくり」
の観点でDX取り組み事例をご紹介します。
ダイハツ工業京都(大山崎)工場では、現場の困り事を解決するために塗装課の改善担当のN.KさんがAIやBIを活用したソフトウエアやアプリの内製に取り組んでいます。
もともと塗装のライン作業に携わっていたN.Kさんは2021年に会社のAI講習会に参加して、その仕組みやプログラムを学びました。研修の過程で自動車のフロアパネルに貼るメルシート(※1)の不具合を確実に検出し、市場への流出を防止するシステムの開発に着手。WEBカメラとPC1台という最小限の設備投資でAIによる異常検知を実現したのです。「ポカヨケ(※2)にAIなんか要らない」、「メンテナンスの手間が増えるのは困る」という意見もあった中で、N.Kさんは丁寧にコミュニケーションを重ねて思いを伝え、理解を得るために努力しました。「現場からの要望を全て実現した」とN.Kさんが語る異常検知システムは、車種や色など生産サイドの変化にも対応できる使いやすいものに仕上がり、現場の好評を博しています。
N.KさんがAI講座を受けたのと同じ2021年に京都(大山崎)工場の設備が刷新され、IoT環境が整備されたことも開発を後押ししました。その後もN.Kさんは現場の声に応えて次々にアプリを開発し、現場のDX推進を加速させています。
(※1) 自動車の底面などに取り入れる防音・防振・防熱用のシートのこと
(※2) 製造ラインに設置される、作業ミスを防止する仕組みや装置のこと
アプリやソフトウエアを内製することのメリットは、コスト面やスピードだけでなく、現場の声を的確に反映できることにあります。
私が開発を手がける際に心がけているのは、何かしらオリジナリティ、自分なりの付加価値をつけることです。その根底にあるのは、もっと現場の作業を楽にしたいという想い。作業する人たちに喜んでもらおうという一心で取り組んでいます。自分が作りたいものではなく、できるだけ多くの人が使って助かるものを作るのが私の役割です。
DXによる課題解決の答えは一つではありません。同じテーマに取り組んでも開発者によって全く違うものになります。だからこそ想いは大切であり、DXを社内に浸透させるうえで欠かせない要素なのです。
食糧自給率の低い日本において、フードロスの削減は重要な社会課題になっています。ダイハツ工業の人事部では、2022年5月からSDGsの取り組みの一環として、本社の食堂を対象としたフードロスへの取り組みをスタート。新たな取り組みの担い手に抜擢されたのは、福利厚生担当のT.Kさんです。
T.Kさんは以前から毎日の出勤者数のデータを食堂の準備数に反映させて、フードロスを削減する方法を検討していました。人事に蓄積されている膨大なデータから、未来を予測できればいいと考えたT.KさんはAI活用相談会で、車両性能開発部のI.Kさんを紹介してもらいました。I.Kさんは週に1日だけDX推進室の業務に就く社内複業制度の利用者です。I.Kさんのアドバイスにより、AIを活用する前にTableau(タブロー)というBIツールを使ってデータを可視化し、現状を分析することになりました。雨天や気温の高い日に食堂利用者が少ないことなど、今までなんとなく感じていたことが、データの可視化によってエビデンスに変わります。食堂のフードロスをゼロにするのは難しい。限りなくゼロに近づけるためには廃棄される食材の利用が必要なことがわかりました。膨大なデータを前に、まずは最も廃棄量の多い御飯に焦点を絞って仮説を立て、検証するための分析を進めています。
いま、全事業部で年間80トンの生ごみが発生しています。生ごみの廃棄を減らすために、最も身近な本社の食堂を入口にしてフードロス削減を実現し、そのスキームを横展開していきたいと考えたことが、今回の取り組みのきっかけでした。まだデータの分析段階ですが、給食業者の協力によるメニュー開発など、有効と思われる打ち手が少しずつ見えてきました。
今回、Tableauを使ってデータを可視化したことで、改めて人事が蓄積しているデータは宝の山だと気付きました。それをどう生かしていくかを考えるのが、これからの私たちの課題だと思います。AIやBIの活用により、社員が生き生きと働ける環境づくりに貢献したい。そのために、もっとAIやBIを使いこなせるように知識を学び、スキルを高めるために努力を続けます。
2001年に入社して以来、エンジン開発一筋にキャリアを重ねてきたS.Yさんは、2023年1月に自ら志願して人事部へ異動しました。優れたエンジニアであるS.Yさんが人事部で何を実現したいのか。それは、ダイハツ工業で働く社員のエンゲージメントを強化することです。
2016年に課長として開発チームを率いていたS.YさんはHRのセミナーに参加して、初めてエンゲージメントという概念に出会いました。そして、自分が今ここにいる理由は、世界一のエンジンを作るという夢を実現できたことにあると思い出したのです。その一方で、自分は管理職としてチームのメンバーたちの夢をかなえるためのサポートができていないことに気付きました。
S.Yさんはクラウドサービスのエンゲージメントサーベイを実施して、チームの課題を可視化しました。メンバーとのコミュニケーション不全というサーベイの結果を受けて1on1ミーティングを徹底し、モチベーションの向上を実現。次に技術部2500人にサーベイの対象を拡大し、組織の立て直しとポジティブなカルチャーの定着に成功します。人事への異動を希望したのは、その取り組みを全社に広げるためでした。
「部署のカラーによって必要な施策は違う。だからサーベイで強みと弱みを数値化しなければならない」とS.Yさんは語ります。その結果をエンジニアの視点で解釈し、デジタルを活用して組織ごとにアプローチしていく。S.Yさんが目指すのは、業務の効率化にとどまらない、社員一人ひとりの夢に寄り添うDXです。
私は入社して間もない頃に小型車用エンジンの開発チームに参加し、2007年から4年連続でインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを受賞したことで世界一のエンジンを作るという夢をかなえることができました。今でも誇りに思っていますし、ずっと当時の先輩や上司に恩返しをしたいという気持ちを持ち続けています。
全ての社員がそういう成功体験を持てれば、エンゲージメントは自然に深まり、生き生きと働けるはずです。私は日曜日の夜に、明日会社に行くのが楽しみだと思える社員を増やしたい。そのためには画一的な施策を押し付けるのではなく、それぞれの組織の課題に人事が一緒に取り組んで解決する必要があります。エンゲージメントにおいて社員と会社の関係は対等であることを基本として、デジタルを活用していきたいと考えています。