2002年09月19日
ダイハツ工業株式会社
ダイハツ工業株式会社(以下ダイハツ)は、排気ガス中で貴金属が自己再生し、初期性能を維持する自動車用触媒「インテリジェント触媒」の実用化に世界で初めて成功した。今後発売する新商品への搭載を検討する。
今年7月に英国科学雑誌「Nature」に発表したパラジウムの自己再生機能の更なる向上と資源供給面および環境への配慮から、研究段階で使用していたコバルト(Co)を用いず、結晶構造の安定な鉄(Fe)での代用を実現した。昨年実用化した「TOPAZ触媒」技術を今回の「インテリジェント触媒」技術に応用・発展させることにより、「超-低排出ガス(U-LEV☆☆☆)」を達成しながらパラジウムをはじめとする貴金属使用量をTOPAZ触媒以前の技術より約7割削減する。
今回の実用化により今後の貴金属使用量が大幅に削減され、触媒コストへの貴金属の価格変動による影響の軽減が可能となり、今後全世界で計画されている排ガス規制の更なる強化等についても低いコスト負担で対応が可能となる。
ファインセラミックス合成技術のアルコキシド法を応用した新製法により北興化学工業(株)にてペロブスカイト型結晶を合成、(株)キャタラーにて触媒化する。
なお、本技術の基礎研究に於いては(株)豊田中央研究所の他、工学院大学教授(東京大学名誉教授)御園生 誠氏、東京大学教授 水野 哲孝氏ならびに日本原子力研究所・構造物性研究グループの水木 純一郎氏、西畑 保雄氏の協力を得た。
補足資料
触媒用貴金属(パラジウム、白金、ロジウム等)の使用量は、全世界で排出ガス規制が強化され始めた1990年代初頭から増加。中でもパラジウムは未燃ガソリン成分を低温から浄化するのに有効であることから10年前と比較して10倍と需要が急増。歯科用、電子、化学分野などの広い範囲でも使用されるため、自動車用途での使用量削減が望まれていた。
「パラジウムの使用量削減」を目指す中で問題となるのは、貴金属の中では熱に弱いパラジウムが高温かつ酸化・還元変動する排ガス中で初期の微粒子状態から「合体・大粒化」し、有効な触媒表面積が減少する事である。ダイハツはナノテクノロジーを駆使した触媒設計と調製方法により、特殊なペロブスカイト型結晶中にパラジウムをイオンとして原子レベルで配置する技術を開発。排ガスの自然な酸化(酸素過剰)・還元(酸素不足)の揺れに応じてパラジウムがペロブスカイト型結晶への出入りを繰り返す「自己再生機能」により、粒子の大粒化を抑制させることに成功した。
インテリジェント触媒技術の核となるペロブスカイト酸化物は、「Nature」に発表した上記の技術をさらに発展させたもの。ペロブスカイト触媒においては、ランタン(La)とコバルトを組合わせて使用するのが一般的であり、ダイハツも研究段階では触媒活性の観点からコバルトを使用していた。しかし今後全世界へ展開して行くにあたり資源供給面と環境負荷への配慮からコバルトの採用を取り止め、ランタンと鉄とパラジウムの組合せを採用した。また、これによりコバルト使用時に比べ高温での結晶安定性が増し、「インテリジェント触媒」の特徴である自己再生機能が更に強化され、低温からの浄化性能が向上した。
[貴金属需要の推移*]
インテリジェント触媒の仕組み
[触媒の浄化性能と走行距離]
[排ガス中の貴金属状態比較]
[インテリジェント(自己再生)機能]