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〜モノづくりの大切さを小学生へ発信〜「ものづくり体験教室」始動

成熟を極めた今日の経済社会において、CSR(企業の社会的責任)に根差した活動は企業存在の根幹をなす重要な要素だ。
ダイハツは近年、CSRの一環として小学生にクルマづくりの一端を体験することでモノづくり全体に興味を持ってもらうことを狙い“ものづくり体験教室”をスタートした。これは自動車産業のみならず製造業全体の発展を視野にいれたものであり、あえて“クルマづくり”ではなく“モノづくり”としたのである。

生産企画部 生産管理室

村山 浩之

Murayama Hiroyuki

1986年入社

製造スペシャリストとして
社会貢献の道を探り、教科書に着目

スポーツやイベントの協賛にスポンサーシップ、芸術文化を支援するメセナ※ほか、CSRにはビジネスとは一線を画したさまざまな活動がある。ダイハツも機を見て社を挙げた多様な取り組みを進めている中、長く自動車製造の現場に立つ村山は「実際にモノづくりを行う立場からできる社会貢献は何か」を考え続けていた。そんなある時、偶然目にしたのが小学5年生の教科書。20ページにも及ぶ誌面が割かれ、「自動車ができるまで」が詳しく掲載されていた。そこには商品企画から設計開発、生産、リサイクルを通じた環境配慮や近未来の車の姿までが描かれていたが、製造プロセスの説明を読んで一つの疑問が村山の頭をよぎった。「果たして学校の先生たちはこの内容を的確に児童に伝えられるのだろうか?」と。地元の教育委員会に連絡を取り、状況をヒアリングしてみると「実は多くの教員がその部分の説明に大変苦労している」との回答。製造工程は誰も見たことも経験したこともない上に、インターネットで入手できる情報もごく少ないという話だった。「ここに助力するのが今、自分たちがなすべきことではないか」。そう決意した村山は、小学5年生を対象にした“ものづくり体験教室”の実施を企画。早速、内容検討に着手するとともに近隣の市役所を訪ねて回り、趣旨説明と認可の取得に奔走した。村山の熱い思いは自治体と教育委員会に伝わり、速やかな同意を獲得。そして自社サイドの了承も得た2015年、近隣の小学校へ出張訪問して具体的な製造の様子を紹介してゆく、ダイハツ初のユニークなCSRプロジェクトが動き出した。

※メセナ:企業が本業とは無関係の演劇や美術、音楽イベントを主催するなど、芸術・文化活動に資金を提供して支援すること。

膨大なモノづくり知識を取捨選択して、
わかりやすく伝える難しさ

プロジェクトの発案当時、村山の脳裏には体力勝負のハードな作業が多い製造現場で高齢の社員が活躍できる場が減りつつあることへの憂いもあった。“ものづくり体験教室”は内側から見れば、自身を含めた豊富な知識と経験を持つキャリア社員の新たな輝きのステージになるはずだ。村山は5名の仲間たちと専任チームを組み、懸命に製造工程紹介の詳細を煮詰めていった。まずは取り組む上での2つのコンセプトを設定。1つ目は、小学生に本物のモノづくりに近い体験を提供することである。通常はさわれない機材に直に触れてもらい、車を形にしてゆく実感を得てもらうことを狙った。2つ目は、教室で使用する機材はすべて村山たちが自前で用意すること。きれいに整えられたパーツを使うより、手作り感に満ちた材料で説明するほうが、試行錯誤して行われているクルマづくりの実態が伝わると考えた。こうしたコンセプトに沿ったプログラムを考え始めて間もなく、村山は困難極まる壁に打ち当たったという。

「私たちはクルマづくりの隅々まで熟知しているプロフェッショナルです。持てる知識のすべてを子どもたちに教えるのは時間的にも、理解度の面でも無理があります。教科書の流れに合わせて知識のどの部分を活かし、削ればより正確に伝わるのか。説明するポイントを絞り込むのは相当苦労しました。活動を始めてからも一定の紹介ではうまくいかない場面がたびたび出てきたので、大人目線と子ども目線の両方を柔軟に合わせることにはずっと悩んでいます」(村山)

同じ小学5年生でも、4年生から進級してすぐと6年生間近では子どもたちの成長度が大きく異なり、紹介内容を固定しては興味や理解に過不足が生じる。開催時期や学校の特徴に応じた臨機応変な説明の必要性に気づかされた村山らプロジェクトメンバーは、今も小学校への訪問を重ねるごとに紹介方法に工夫を加え続けている。

急拡大する教室開催依頼に伴い、
全社を巻き込む取り組みへ進化

プレス、溶接、塗装、組み立て、エンジンの仕組み、流れ作業体験など、村山たちが苦心して練り上げた1クラス90分の体験プログラムを携え、“ものづくり体験教室”は開始初年度、ダイハツ本社に近い大阪府池田市内の4校での試行となった。3クラスあれば午前2回、午後1回の開催で、1日に訪問できるのは1校が限度。そんな中で日を追うごとに周辺各地域の小学校の評判を呼び、2年目は44校、3年目は95校と、来校依頼が引きも切らない状況となっていった。プロジェクトの飛躍的な拡大を目の当たりにした村山は、当初からのメンバーに加えてサポートメンバーを社内から広く募る活動を開始。年齢・性別やキャリアを問わず、“ものづくり体験教室”での社内講師=「キャスト」への参加を呼びかけた。

「来てほしいという学校がどんどん増えて訪問出動する日も多くなり、専任メンバーだけでは到底手が足りなくなりました。それに、実際の部品や工具を使って子どもたちへ製造工程ごとの説明をきっちり行うには、1クラスに11名のスタッフが必要とわかってきたのです。専任メンバー以外は本来の仕事の合間に交代で来てもらう必要があるので、会社のできるだけ広い範囲に働きかけてみようと。おかげで現在は新人からベテラン社員まで、250名を超えるキャストが集まってくれています」(村山)

キャストでの参加はあくまでも社員個々人の判断であるため、各部門への参加人数割り当てや強制は決してしないと村山は語る。プロジェクトのスタートから3年、“ものづくり体験教室”は地域社会にはもちろん、自社内にも着実にその意義が浸透しつつある。

未来のモノづくりの担い手発掘と自社存続につながる、
決してやめられないプロジェクト

あらためて注目したいのが、“ものづくり体験教室”が内包する、キャスト社員や会社にとってのメリットである。それぞれについて、村山は次のように話す。
「“ものづくり体験教室”に参加したキャストは、普段の職場を離れて外から自分の仕事を見ることができます。それによって、日々何気なく行っている業務がどれほど周りに期待されているのか、一人ひとりが再認識できて自己の活性化につながります。例えば、若手社員にはこれからのやる気に、中堅社員は培った知識やノウハウの確認に、ベテラン社員は会社自体の存続に向けてやるべきことの確認に活かせるように思っています。一方、会社にとっても、子どもたちにダイハツ車やダイハツそのものを“ものづくり体験教室”で印象深く覚えてもらえれば、将来に少しでも備えることができます。この活動でクルマづくりに魅力を感じてくれた小学生が、未来のお客様やダイハツ社員になってくれるかもしれませんから。もちろんダイハツの発展に繋げたいのは社員として当たり前ですが、とにかく日本の製造業を支える担い手になってもらいたいのが本音で、私は絶対にやめられないプロジェクトだと捉えています」

今後ますます進む日本の少子高齢化を考えれば、それに伴う自動車産業やユーザーの縮小に歯止めをかけるのは難しい。だが、自動車というモノづくりの素晴らしさを独自に絶やすことなく伝えていけば、そこから必ず自社の発展、そして製造業の発展につながっていく。その実現に向かって、村山をはじめとするダイハツ社員は一歩一歩挑戦を積み重ねている。